噂の男

まだこれから地方公演もあるので畳みます。
ていうか尋常じゃないくらい長くなちゃった。

『噂の男』


公演日程 2006年8月11日(金)〜9月3日(日)
作  福島三郎
演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演
堺 雅人
橋本じゅん
八嶋智人
山内圭哉
橋本さとし


福島三郎×ケラリーノ・サンドロヴィッチの初顔合わせで贈る、
予測不可能なサスペンス・コメディ。
いやーな男たちの、いやーなお話。

作・演出の福島さんもケラさんも初めてだったので
どんな話なのか、個人的に好きな話なのか心配でしたが
杞憂でした。個人的にかなり好みのストーリー展開。
いやしかしなんと言っても役者のすごさにつきますよ。


橋本じゅん(モッシャン:パンストキッチンのツッコミ担当)
12年前に、人気絶頂の最中相方を不慮のボイラー事故で亡くす。
以来、表舞台には出ず自暴自棄の生活を送る。


じゅんさんは阿佐スパの「桜飛沫」以来。
あの時はすごく2枚目で、男前だったのに。
今回は狂気を全面に出した男でした。
この誰もが主役であると言える布陣の中で、やっぱり
頭1つ半くらい出ている、圧倒的な存在感。
マネージャーをまるで中学生のようなやり方で
陰湿に苛め抜く一方、自分の才能に自信を持たずに
相方だけが違う道で売れていくことへの恐怖を抱いている弱い所も。
特に廃人と化してからのモッシャンの演技が。
全てが終わった後の、昔に戻ったかのような1人での漫才。
モッシャンはアキラと漫才がしたかった、それだけだったんだな。


堺雅人(鈴木:劇場支配人)
パンストキッチンの元マネージャーで今は
アキラが事故に遭った劇場の支配人を勤める。


堺さんはテレビでは拝見したことがあるけれど
舞台では初めて。
テレビで見る限り「笑顔でほわーんとした印象」
こんなに良い意味で裏切られるとは。
一番まともじゃなかったのは、この鈴木だったと思う。
自分の気持ちのままに愛して、どんな手を使ってでも愛する人
一緒にいたいと思っている、人格に大きな欠陥を持った男。
何がすごいって、マネージャーの時に本当に20歳そこそこの
男の子に何の違和感も感じさせないところ。
そして観劇前には「ほわーん」としていた笑顔が
あんなにも「変態、エロティック」な効果を発揮するとは。
特にボンちゃんを見る微笑はエロ過ぎ。
笑顔でアヤメの髪掴んでを引きずりまわし、手をかけるところは
ぞくぞくするし。
モッシャンに裏AVの出演交渉する顔も、ぞくっとした。
いじめられて、半裸の時白い肌に汗が浮かんでいるのが
相当エロいと思ったのは私だけですか?
優男フェチだからでしょうか。なんかすみません(笑)
「喜怒哀楽全てを笑顔で表現する男」
「スマイル0円男」は的確な表現。素晴らしい。


■八嶋則智(加藤:ボイラー技師)
ただのボイラー技師と思いきや、彼もまた
この狂気に包まれた男たちの犠牲者の1人。


八嶋さんも舞台では初見。
11月の阿佐ヶ谷スパイダースで見る予定が繰り上がった。
前半は喋って喋って喋り倒して、テレビで良く見る役柄。
と思っていたら、モッシャンを見つけたところから彼の
心の底にずっと秘めていた「狂気」の部分が一気に噴出して
ああなんて八嶋則智という役者は陰と陽の振り幅の大きい役者なんだ
と改めて実感。
特に今までの怒りや恨みをぶつけているのに
相手になんにも伝わらないこの絶望感。
暴力をふるっても振るっても報われない、父を思う気持ち。
個人的にここで一番感情を揺さぶられた。
彼が死の淵ではない、劇場に着いてすぐアキラが見えたのは
復讐心によって一線を越えた位置に心があったからなのかな。


山内圭哉(ボンちゃん:売出し中のピン芸人
袴にちょんまげのヅラで、なまずをびたーんびたーん叩きつける
芸で今大人気の芸人。
鈴木支配人と関係があるが、先輩である骨無しポテトのアヤメとも
関係を持っている。


前半、先輩であり夫であるトシに見張りをやらせて
その妻であるアヤメと関係を繰り返し
また鈴木を「ホモの癖に」と下げず見ながらも関係を続ける
ボンちゃんという男が、最低の男にしか見えなかったけど
終わってみれば彼が一番まともな感性で生きているんじゃないかと
そう思えてならない。
「すぐそこで客が笑っている。
その裏で2人も人が死んでるのは可笑しい」と
この状況に目を塞ぎ、耳を塞ぐ行為は精神が正常だからこそ
耐えがたく、現実逃避するんじゃないかと。
ヅラONヅラには毎回笑わされます。ずるいです。
そして髪が長いと圭哉さんは男前過ぎて、ダメです。


橋本さとし(アキラ:パンストキッチンのボケ担当)
端麗な容姿から人気を博し、お笑い以外の分野でも活躍。
しかしボイラー事故により12年前に死亡。


私、さとしさん舞台で見たことあったっけ?
新感線でのW橋本時代を知らない私でも
この二人の漫才の呼吸のピッタリ加減は驚き。
頑張ってない漫才師の何倍も面白かった。
本当つっこまれて、振り飛ばされて、弱点攻められても
楽しそうだったなぁ。
アキラとしては、悪人になりきれない悪人。
でも一番やり方は卑劣。
好意を寄せる鈴木を拒否し、大切なものを傷つけ
そして罪を大切な人にかぶせる。
その代償は大きすぎた。
最後、モッシャンに
「自分が死んだのはモッシャンのせいではない」と
伝えたいのに、間に入る人たちがモッシャンへ悪意しか
持っていないために伝わらない。
アキラの想いが何にも伝わらない。
「報われない・・・」とボイラー室へと消えるアキラの
後姿と、モッシャンの振り切れた顔での漫才が
切なかった。


■猪岐英人、水野顕子(トシ、アヤメ:骨なしポテト)
12年前のボイラー事故の日に彼らも劇場にいた。
なかなか売れない中堅漫才コンビ


元々はクレジットに無かった二人。
アーノルドシュワルツェネッガーの役者さんだそうです。
しかし全ての事件の要でして。
そう思うと、彼らが入る前までの話がどうなっていたのか
大変興味あります。
特にアヤメ、素晴らしい女優さんですね。
初めて見たんですが、幼児性と凶暴性、そして
押えきれない欲望を全目に押し出していて
彼女も狂気を身にまとってしまったがあまり
二人ともが破滅に向かってしまった。
アヤメがあの時、アキラに出会わなければ
ここまでの狂気の輪は大きくならなかったんではと。


この悲劇の輪の始まりは
「芸人が売れるためには手段を選ばない」
所にあるのかなと。
ここでは殺人と言う極端なものだけど
現実の芸能界には近いものがあるんだと思う。
そして売れるためと言うわけではなくて
「笑いのためなら」とちょっとした一線を越えているな
と言う話は、お笑い好きならよく聞く話しだし。
この芝居を見てて、普段の芸人さんのトークライブとかで
相当きわどい話を聞いてゲラゲラ笑っている自分にも
彼の何分の一かの黒い部分を持ち合わせているんだなと
ちょっと怖くなった。
でもその微妙なボーダーライン上に面白さが多く
転がっている事実も否めないんだな。
そして「噂」 
『噂の代償は、高くつきまっせ』
その通り。
しかし暴力的で、性描写も満載で後味は悪いの一言なのに
何故もう一度見たくなるんだろう。
役者と本と演出ががっつり組み合わさって
相乗効果の賜物なんでしょうね。
すごく長塚圭史の書く芝居に近いものを感じた。
だから好きなんだな。
救いが無く、人間が誰しもが持っているけれども
できれば目をそらしていたいものを
直視させてくれる、好きな舞台だった。
チケットが取れなかった時点で諦めてたけど
当日券と言うものに頼ってみて良かった。
本当、お芝居はご縁。
縁があれば見れるんだよねー。
DVDになったら是非購入したい。


余談ですが、パンフレットで驚愕したこと。
圭哉さんの対談相手がアンナちゃんだったよ。
いや、アンナ名義ではなく「フェラおじさん」で。
キワモノ演芸に審査員で出てたとき、えらいアンナちゃんで笑ってはって
「あーこんなん圭哉さんすっきやろなー」と思ってましたけど
いいんですか??
パルコ劇場で発売するパンフレットですよ!!
堺さんのファンの方も買うんですよ。
(偏見ですが、堺さんのファンの方には清純なイメージがあるの。
今回のあんなシーンやこんなシーンで「きゃっ」って言っちゃうような。
あ、お友達のあなたは別です。あなたは(笑、本人わかるかしら?)