神保町花月『ラストニュース』

脚本:牧田 明宏
演出:高梨 由(TRAPPER)
出演:
ミルククラウン/武内由紀子/ラフ・コントロール/クレオパトラ/来八
平田敦子 他

あらすじ(公式HPより)
男はある夜一つの罪を犯した。そして、その真実を隠そうとした。男はニュース番組のキャスターである。男は自らの真実に脅えながら、日々、おそらく真実であろう世の中の出来事を伝える。男の抱えた真実が次第に輪郭を見せた時、男は…。

ストーリー的に好みでした。
そして何より芸達者が多いのは見てて楽しいし、面白い。


ミルククラウンは「劇団 ガッツ」での演技力を知っているので、全く心配もなく、竹内さんにいたっては期待過剰で見に行きましたがそれを上回るくらい。若干売れっ子のキャスターっていうには幼さの残るお顔立ちなのが若干勿体無かったですが、ラストに兄の決死の覚悟を知りこれまでに自分が重ねた罪を告白するシーンはぐっとのめりこみました。だんだん追い詰められていく中で、兄という面倒な存在が出現し苛立ちが募り妻や家政婦と険悪になる過程が結構丁寧に描かれてるなぁっと。
なにより今回、心鷲掴みにされたのは定職にも付かず有名になった弟に集るだけのどうしようもない兄を演じたジェントルにでしょう。個人的に苦手な芸人さんなんですが、今回はダメです。かなり心持っていかれました。ジェントルにぴったりな役ですよね。全身に「危なっかしい良い男」の匂いをまとってましたね。好きになったら絶対に女が傷つくタイプの男性ですよね。そんな感じなのに、自分の命を顧みずにいつもと様子の違う弟の真実を聞き出し、諭し、自分の命を持って解決しようとする強さ。特に圭吾に平手打ちするシーンが、殴るでもなく平手なところと、叩く強さって言うのかな?これがとても省吾らしかったんですよ。なんとなく省吾はこう叩くなってイメージできる感じ。そしてそのあと、ルビーとの地獄の門番の話。なんかほっこり出来た後だったから、ルビーから「ぎゅっと抱きしめて行った」って聴いた瞬間にそれから起こりうるであろうことが、容易に想像できて涙が出てしまった。このシーンが胸にぐっと来たからこそ、その後の圭吾の告白にもつながるし、エイプリルフールの省吾とルビーのやり取りにもつながるんだなぁ。他者様のブログで、千秋楽は省吾はルビーにキスをしたそうです。たぶんどっちも可愛いんだろうなぁ。
武内さんは出ているだけで場がしまるし安心できる、貴重な神保町の女優さん。竹内さんとの夫婦役となると若干の違和感はあったけれども。自分の保身のために夫の罪の片棒を担いだことと、面倒な義兄の出現でどんどん精神が追い込まれていく様がリアル。唯一の清涼剤になるルビーにも当たってしまうところがまた悲しい。担当編集者の何気ない「先生のためなら、罪でも犯せます」の言葉に一瞬でもあらぬ考えが浮かんだ顔が秀逸だった。
ラフコントロールは、神保町でずっと見たかった一人。でもラフコンは主役のときに見に行ったほうがよさそう。スーパーサブなのはとてもわかるが、今回の重さんはちょっとやりすぎ。まったく物語に関わらないからこそ、ここまで出来たんだろうけれども、もうちょっとセーブしてくれたら話自体がもうちょっとタイトで見やすかったかなと。バナナの件で若干ぐだったのが残念。主役な重さんを見に行かねばって思った。森木さんは本当にできる人。凄いな。楽屋ブログで四谷さんのキャラクターをおじいさんにしたのが森木さん発信と聞いてびっくり。客だしまであのキャラのままだったし。トラブルもそのキャラ保ったまま、解決する姿は素敵だった。キャラクターの緩急のつけ方が抜群だなと。森木さんも主役での本気をもっと見たいなぁ。
心待ちにしてたクレオパトラの神保町デビュー。事前情報として、どうやらクレパトいいぞとあったが確かに。桑原さんも長谷川さんもどっちも凄くはまり役。桑原さんは胡散臭さがとても良い。LLRの福田さんとはまたベクトルの違った胡散臭さ。ほんと「ザ・ディレクター」って感じで。圭吾に対してグデグデしちゃう感じとか、本当気持ち悪くて最高*1たぶん無駄に手足が長いから余計なんかアンバランスで。長谷川さんはキャラにないところを演じるっていう、神保町花月の醍醐味満載。普段からは想像も付かないくらいのチャラいいまどきの若者然とした感じが最高におもしろかった。そして尋常じゃないくらいのリズム感の悪さ。あんなテンポの悪いパラパラ初めて見た。
来八はやっぱり田中さんの台詞が聞き辛い点があるのがもったいないけれども、「僕を忘れて」のときから比べたらものすごくよくなってた。自分の運命を握っている夏江に、証言をして欲しいと訴える姿は鬼気迫る感じがそのまま不審者的空気も出してて良かったなぁ。小林さんはやっぱりしゅっとしているので、刑事もとても良くお似合いだった。お顔立ちが綺麗な分、苦みばしった刑事って感じはそんなにしなかったけれども。最後、自白とも取れる告白をした圭吾を、局の前で待つ表情が良かったなぁ。何を思っていたんだろう。
そして何よりこの人を見に行ったんですよ。平田さん。折込パンフの役名が「ルビーモレノ」の時点で撃沈でした(笑)しかしやっぱり笑いどころも、泣き所も全部持っていきますね。緑川夫妻に対する、絶対的な信頼とか愛情とか。だからこそ、事件のせいで気が立っている夏江に理不尽に怒られたときの悲しみというか、戸惑いというかその表情が胸にぐっと突き刺さって。初めは変態だと警戒していた省吾にも、一緒にいるにしたがって「家族」的心情が芽生えたのか最後は罪を償って帰ってくるであろう夫妻を、一緒に待っていましょうって気持ちになる。この気持ちの移り変わりがだんだんと警戒が解けていく様が丁寧で、やっぱり平田さんは素晴らし過ぎますよ。


若干スーパーサブがやりすぎた感は否めませんが、とても良い芝居だったなぁと。物語の内容もさることながら、見せ方、演出がかなり好みで。話の進め方も、最初にラストを匂わせてだんだん真相が見えてくるつくりも好きだし。この物語にしてはかなりポップなオープニングとかも。
次回は来週の南海キャンディーズ山里氏脚本、ゆったり感主演の「カーテン」です。後の追加メンバーとして、ノンスモーキン・工藤さんが発表されて俄然期待してます。

*1:褒めてます。