月影番外地 『物語が、始まる』

原作:川上弘美中央公論新社刊)
脚本:千葉雅子
演出:木野 花
出演:高田聖子、加藤 啓、辻 修
あらすじ(HPより)
「三郎、私に恋をしてはだめよ。」

「なぜ」

「簡単すぎるじゃないの」

粗大ゴミの日、私は公園の砂場で男の雛形を拾った。

大きさ1メートルほど、顔、手、足、性器などすべて揃っている。

大人でも子供でもない中途半端な顔つきの雛形を「三郎」と名付けた。

私との生活の中で急速に成長してゆく三郎。

バグだらけの日本語変換ソフトのような、ちぐはぐな私の恋人…本城さん。


そして私、「山田ゆき子」
なんだか変で、かなり切ない三人の、物語が始まる

公演中ですので。


チラシを貰った時、ただ一箇所引っかかったのは原作ものであること。
それならばと先に原作を読んでみると、3人の登場人物と出演者がぴたっと当てはまり俄然見たい気分に。ということで見に行ってまいりました。


聖子さんはこれまで見た役といえば、男前であったり、おポンチだったりと。でも今回はものすごく女性らしい女性で。本城さんの前で見せる、自分に自信のなさげな女性もそれが色っぽく見えたり。三郎を前にしたときの、あるときは母性を感じさせ、あるときは安心しきった表情を見せ。高田聖子という女優の巾を見せつけられた感じです。「本城さん」「うん?」「ただ呼んでみたかっただけ」のやり取りが原作の時点でも好きだったのですが、役者というフィルターを通すとなおさら素敵なやり取りでした。
加藤さんは原作を読んだときから、本城を加藤さんが演じたらものすごくはまるだろうなと想像が膨らんだのでとても楽しみでした。ちょっと世間からずれたような、本当はずれているんじゃなくて本性を隠しているような。それでいて素直になれないようなそんな男性がぴったりでした。
なにより今回は三郎の辻さんですよね。チラシの写真の時点で人間離れしているというか。彼以外に雛形を演じて違和感を感じない役者はいないのではないでしょうか?肌のつるっとした質感とかもはや人間ではない(笑)芝居の最初、お風呂に入れてもらいながら気持ちいいかと問われてこっくりとうなずくところでぞわっとしました。最初が違和感無い雛形だからこそ、最初に「三郎」と呼ばれてびっくりするところ、「僕が好きなだけで十分じゃないですか」というストレートすぎる告白が心に響くというか。


物語に大きな起伏があるわけでもなく、これまでの千葉さんの本のような男前なところがあるわけでもない芝居でしたけれども、なんでかとても好きでした。