阿佐ヶ谷スパイダース 『少女とガソリン』

■あらすじ■
かつては清酒の産地として栄えたとある街。
しかし今はどの工場も閉鎖されてしまった。
再開発の波に抗いながら生きる酒を愛する男たち。
彼らが唯一の救いとして慕うのが、人気アイドルSであった。
そんなある日、街の再開発のイベントにアイドルSがやって来るらしいという情報が舞い込み…。
愛する街と酒のため、アイドルソングに乗せて男たちの暴走がはじまる! (公式HPより)


作・演出:長塚圭史


キャスト
中村まこと
松村 武/池田鉄洋/中山祐一朗/伊達 暁/長塚圭史
富岡晃一郎/大林 勝/下宮里穂子
犬山イヌコ

以下、ネタばれ有り(注意!!)
冒頭から良いおじさんたちの全力アイドルカラオケが聞けたことでもうおなかいっぱいです!!な最高さ。下手さ加減が絶妙です。リポポンへの狂気さえ感じる熱狂ぶりに笑い。次第に歪んでエスカレートする愛情に恐怖を覚え。差別されて生きてきた者の言葉に泣きそうになり。差別されるものがまたほかの異物を差別することに怖くなり。チェーンソーが出てきたことで、「あ、阿佐スパだ」と実感し。後半の親の愛の深さと、それによって運命が狂った人々を思うと悲しくなった。玉島と丸代の場面が素敵だった。
まことさんは今回も、どっしりと座長でした。もう本当に好きで好きでたまらない。ダメでいて素敵な男を演じたらかなう人はいないんじゃないか。まことさんがいるだけで舞台にぐっとのめりこまされる。町を、象徴としての「真実」を守るために間違った方法でアイドルをミューズと崇めていた男が、そのミューズが我が子で自分と同じ差別の道を歩み始めるとわかってからの親心全開の決意が格好よかった。
松村さんは、もう最初入ってきた瞬間「こいつはやばい」って空気をかもしだしてたのに、水子肩に乗せてからは可愛い可愛い。完全に気が狂った可愛さなんだけど。「お前は見ちゃいけない」って水子の目を塞ぐところとか。
池田さんは後半の気の違い方がすごかった。あの眼力と声で、冷静なのかと思いきや一番やばい感じがすごかった。チェーンソーで血まみれなのが似合う似合う。
中山さんは、開始早々暗転中からあの声で始まってすでにほわわんとした気分に。差別をずっとされていた櫛田の町で、彼もまたゲイということで一瞬引かれる。人間の弱さっていうか酷い一面を見せられた・・・。中山さん、ゲイっぽくないようなでもそう言われればそうかも・・・って感じの不思議さ。
伊達さんの今回の役が一番見ていて心が痛かった。差別の中で逆に「櫛田の人間ではない」と差別され、櫛田の一員になるためにリポリンと既成事実を作ろうなんて尋常じゃないけれどもそれだけ追い詰められていたのかなと。彼も櫛田に来る前は、どこかで何かしらの差別を受けてきたからこそ「真実」に救われ、嵩じて櫛田に来たのかなと。池鉄とは別のベクトルで血まみれがよく似合う人だ。
長塚さんが今回は結構出ていてうれしかった。一番常識人だったのかな?普通にリポリンに救われて、「真実」と櫛田の町を存続したいだけの人。だけど櫛田を捨てた姉の気持ちもわからないでもなかったのかも。笠城とリポリンが二人っきりになって「それはボランティアですか?ご褒美がほしいから?」を結構長くやっていたのが、後々関わるかと思ったけれどそこまでじゃなかったな。
富岡さんはそんなに出番があったわけじゃないのに、すごく狡猾なイメージのみを焼き付けて。逃げてみたり、すがってみたり。
大林さんは感想書くほど出ていなかったので・・・。
下宮さんは流石ミューズなイメージ。アイドルアイドルしてました。「ありがとうございます!」の一言で、劇中の男どもと同様にすべてを許せてしまう魅力がありました。可愛かった。
犬山さん。私が見る舞台のイヌコさんはいつもシリアス。いつかはフニャフニャイヌちゃんみたいです。しかし今回は櫛田の女である自分が、我が子を自分とおなじ目に合わせないようにしていたのに、気がついたら櫛田に戻ってきてしまった葛藤が素晴らしく胸痛かった。
とつらつら書いてしまいました。
最後に全員が横並びで、労働者の賛歌を歌ってそこに赤い紙吹雪が舞うエンディングは胸がキュッとしました。エデンが見つかったってことでしょうか。


最初にこの芝居の情報を知った時に、「スズナリか。なんて小さいところでやるんだ。チケット大変だな」なんて思ってたのですけれども、これはスズナリじゃないといけない芝居だったんですね、たぶん。小さくて、狭くて閉ざされていて。入口から客席までの階段からもう芝居の世界の一部なんでしょう。そして「櫛田」という世間から疎外され、差別された閉鎖的な街に客席ごと飲み込む。この空気も芝居の一端だったんでは?と思います。肌でこの苦しみを感じるというか。事実、私はすごく緊張したのか終演後は体がちがちでした。もし大阪にOMSがまだあったのなら、きっとそこで上演しただろうな。
私が初めて阿佐ヶ谷スパイダースを見たのがOMSでの「日本の女」。暴走する男シリーズの第一弾でした。あの時、あの閉鎖された空間でこの「暴走する男シリーズ」に出会い阿佐ヶ谷スパイダースを知って本当によかった。