神保町花月『声 〜黒松病院〜』

脚本:久馬 歩(ザ・プラン9
演出:ブラジリィー・アン・山田(ブラジル)
出演:
POISON GIRL BAND/あべこうじ/LLR/パリパリポリパリ、
キシモトマイ/川恕Wあさみ
あらすじ(公式HPより)
入院患者で賑わう黒松病院。仮病で入院する患者もいたり。そんな中、新しい患者が現れた。そんな人達の物語。

土曜日の1回目と、日曜日の千秋楽と2回見に行ってきました。正直、1回目を見終えたときは物語というよりも、役者の笑いの部分が目に付いた芝居だなって感想でした。それが2度目を見たときに、ここまで印象が変わるものなのかと自分でも驚くほど違って見えて話としても良いところがたくさん見えたお芝居でした。


今回の主演はポイズンのお2人なんですが、まず書きたい人が。LLRの福田さんです。個人的にファンだってことを抜きにしても、良いお芝居をしていたなと。特に2度目、結末をわかってみているからこそ見える芝居の細かさ。医者から嘘の病名を告げられて、一人部屋から出て行くときの寂しげでなんともやりきれない表情に胸が痛み、だからこそ後に個室に移り残り少ない命で「ドナーとして使ってください」と懇願する姿に思わず涙がこぼれてしまったのかと。とにかくLLRは2人とも本当にお芝居が上手になって生きているんですよね。演じることに照れがないというか。だからこそ今回は、物語のなかで唯一死に逝く人を説得力持って演じられたのかなと。ただこんなシリアス芝居だけが良かったわけではなくて「パジャマでおじゃま」もでしょう。あの曲が鳴って「パジャマでおじゃま♪」って瞬間のあの笑顔。可愛くはないのになんとなく可愛い。ど変態承知で書きますが、1公演はお着替えにおいての特等席で見たので白肌をガン見してやりました。そして辰巳に「やっと2人っきりになれましたね」のときの、人間離れした俊敏さと顔!怖い怖い。ここはガッと来られた阿部さんもいい顔してたなぁ。表情といえば、杉並にちゃちゃ入れてうっとうしがられてバタンと不貞寝する表情がツボで仕方なかったな。
ポイズン吉田さんは弟想いな兄貴を好演。若干オカマな兄貴でしたけど。「ポリープちゃん」と「ブリーフちゃん」を目の前にした可愛らしさは、ビジュアルと相まって楽しい。吉田さんに関しては、ラストのテツとの会話がたまらなかったです。あんなに優しい印象を与えられるんだなって。「俺が鶴の折り方教えてやるよ」ってひと言なのに、この時点ではそれが叶わぬ望みになりそうだったからこそ、すごく胸に届くというか。この兄弟分の関係性は凄く良かったな。まさかの実の兄弟だったけれども。あとは、普段では絶対に聞けない阿部ちゃんへの「好きだよ」からの不器用なウインクの流れ。吉田さんは神保町で見るたびに思うんだけれども、変にキャラクターの付いた役よりも、普通の役柄を演じているときのほうが抜群に素敵に見えますね。
弟分・テツ役のLLRの伊藤ちゃん。今まで数本LLRが出演した作品を見、単独で福田花月を見てきて本当に演技力がぐんぐんあがっているんだなぁって実感しました。兄貴がそろそろ危ないって時の演技が、不器用ながらもちゃんと兄弟の強い絆が感じられて心に響きましたもの。そんな中での白鳥、もとい鶴の演技。ああいう伊藤ちゃんって新鮮ですよね。今回はLLR2人とも新たな一面を見せてもらったのですが、伊藤ちゃんは特に。そんな中で生まれた名言「兄貴、鶴っす!」これが面白いけど無邪気で可愛いんですよね。
ポイズンの阿部さんはストーリーの中心でそこまで遊べない役どころで、なのにあの多種多様な表情。もはや顔芸の範疇ですよ。愛想笑いと、恐怖に引きつった顔が最高でした。後半補聴器によって、本心が聞こえてしまうようになってから「辛い現実」を知ってしまったときの沈痛な顔も凄く良かったです。
あべさんはやっぱり舞台上にいるだけで、場がしまりますね。結構自由度の高い役立ったと思うんですが、大喜利コーナーに入ったときはひたすら奔放に、一転ハザマが病室を移った頃からのシリアスな芝居。隣に自由なマイちゃんが居てのこの切り替えは本当に素晴らしい。大喜利では本当に自由自在だったなぁ。基本テツ狙いで(笑)
マイちゃんは、演技派ではないじゃないですか。でも結構好きなんですよね。おさむショーオトメメンでも力の抜きどころっていうか。今回もホモネタや、大喜利等ありますが芯は「命」を扱った話じゃないですか。命の現場に近い看護師のマイちゃんが、リアルな中で一人メルヘンというかポップというか、このバランスが凄く好みでした。
パリパリポリパリのお2人も頑張ってましたね。杉並君役の鮫島さんは阿部ちゃんに無茶振りの嵐で。でもスリッパという鉄板小道具を見つけられて良かったです。山本さんは、変わった売り子だと思ったら精神病棟の患者という役。ドラゴンボールに疎くてすみませんって感じです。
川崎さんは元プロレスラーで、大阪生まれの現在はシンガーソングライター兼女優。さすが大阪人。笑いの間が素晴らしい。そして何より「かくれんぼ」は名曲過ぎますよ。


話としては、無駄にホモネタが多かったり、福田さんの生着替えの必要性とかいろいろありますし、何より1回目だけだったらこんなに満足感を得られなかっただろうと思うと若干思うことはありますが。もともと久馬さんの本は伏線が多数なので、仕方ないかなとも。個人的にこんなに1回目と2回目で受け取る印象が違う芝居は初めてだったので、そうおもいました。演出でとても好きだったところがひとつ。暗転になり、ハザマさんの心電図の音だけがなり、そしてその後鼓動が止まるこのシーン。暗転の長さ、心臓が止まってから曲が流れるまでの時間全てが完璧!とうなるほど。あまりの素晴らしさに鳥肌が。そして普通なら長すぎると感じるほどの暗転が、ハザマさんの死を自分の中で理解し消化する絶妙な時間でした。