神保町花月『放課後アゲイン』

脚本:樅野 太紀
演出:三橋 潔(ナルペクト)
出演:
カナリア/コンマニセンチ/グランジ
若尾桂子/川崎あさみ/鈴木亜季
あらすじ(公式)
あの頃は今がずーっと続くと思ってた
あの頃は明日のことなんか考えたことなかった
気がつけば、いつの間にかなっていた“大人”
男たちの青春は故郷で繰り返す

神保町の予定が発表されてから、このお芝居を見るまではタイトルにずっともにょもにょしてました。以前、樅野さんのブログで「ようやく『チャイルドマシーン』って肩書きが取れた」的な(ニュアンスは違いますが)ことを書いていて、いつまでもチャイマ関連の言葉で一喜一憂していたらいけないのだなとも思ったんです。でも、好きだったもんは仕方ないんですよ。これからもこの作家さんの無邪気な言動に振り回されるんだろうなぁ。でも、お芝居はそんなこと関係無しにとても素晴らしいものでした。
余談:しかし、なんで山本さんがこの辺のことを言ってももやっとしないのに樅野さんだとだめなのかと思ったら、そりゃそうだ。山本さんはまだ芸人でいてくれているものね。


物語としては本当にノスタルジーに浸ってしまうお話で。自分も高校時代に体育祭の応援団で色々ダンスしたりと思い出があったから、5人のわちゃわちゃした感じがとても懐かしかったなあとか。あと、見終えた後に友達とも話していたのですが、このお話は登場人物くらいの年代以上の人じゃないと100%は楽しめないんではないだろうかと。私は完全にカナリアグランジと同級生なんで、すっごくのめりこめたというか。偶然自分も去年秋に同窓会して、そのときに「これからは定期的に集まろう」なんて言ってたけどあれから一度も集まってないなとか思い出したりして。この感じをすごく痛感したのは、安達さんのナレーションで「あれから3ヶ月もしたら連絡もなくなり」みたいな台詞で若い感じの(笑)笑いが起きたから。ある程度年齢を重ねて、この立場になったら、笑いよりも「そうそう」「あるある」って納得、苦笑いにしかならないとおもうから。そんなことを思い出させてくれる芝居でした。見終えた後にすぐ高校の友達に連絡したくなったし(笑)

芸人さんはみんな安達さんの役をどう思ったんだろう。「10年たって、夢と現実の区別を付けるにはいい機会」結構シビアな台詞だなーって思ったから。とにかく泣けて、身につまされて、友達ってやっぱりいいなと思って、そして何より「男の子の友情はやっぱり女の子と違うな」と実感したお芝居でしたね。


カナリア班ということでしたが、いやいや主役はコンマ二センチ竹永さんでしょう。過去にオトメメンの伊呂葉でがっつりと心酔した私にとってなぜ今まで神保町に出なかったんだ!!と(トークライブで判明)。もうね芝居の緩急が絶妙なんですよ。ガンで死んでしまう、悲しい役柄だからこそいつもの竹永さんのテンションの芝居が際立って。そんなテンションでずっと来たのに、いざ入院と病院へ向かうシーン。思いがけない友達からの励ましに、「生きる」事への生々しいまでの執着を叫びとして搾り出すさまがとても辛くて涙がぼろっとこぼれました。あー本当に素晴らしい演技をする人だ。友達の応援を、嬉しそうに見る姿のまま友達だけが葬儀のシーンに移る演出は、単にトオルの死を見せるよりもいっそう寂しさが伝わったなぁと。千秋楽なんて、堀内さんはデーモン風メイクのままの焼香なのにちゃんと寂しく悲しいのは竹永さんの力技。広島弁も、地元に残った友達の素朴さが現れて凄く良かったなぁ。
安達さんは本当に器用に演じはる方ですね。これまでの多かれ少なかれ狂気をはらんだ演技もとても好きでしたけれども、今回の等身大の男性もいいなと。友達とはちょけたり、でも喧嘩のシーンで見せたあの極寒の表情も良かったし、トオルの病気のことをみんなと喋るシーンも良かった。トモちゃんとのきゃっきゃしているシーンも、プロポーズのシーンも、「やっと2人になれたね」で爆笑とったシーンも。そしてなにより、トオルの後を継いで八百屋になったシーン。竹永さんの完コピはええもん見せてもらいました。安達さんが「いやいやいやいやいー」って言っただけで笑える(笑)
ボンちゃんはボンちゃんでしたね。どうやら連日スベリにすべったウォシュレット漫談!私のときもきっちりすべってました。めげないのが素晴らしい。あんなふわっふわ頭のセールスマンがトイレ売りに来てもそら買わんって。奥さんとの電話、いいシーンでしたね。「家族を言い訳にしている」って自分で言っちゃうだんなさんも、「たまには家族以外にもパワー使っていいよ。たとえばトオル君とか」ってさりげなくだんなさんを後押しする奥さん。トークライブで樅野さんがおっしゃってたけれど、お芝居中の奥さんはどちらも理想の奥さんだよね。この2人の奥さんを演じられた鈴木さんが、凄くナチュラルにええ嫁ちゃんオーラを出してて。でもちゃんと2人のだんなさんに合わせた感じも醸し出してていい女優さんだなと。
堀内さんはオイシイ役柄でしょう。「大事なものオブザイヤーは家族に決まりました」*1この台詞、堀内さんの言い方込みで凄く好きでした。いいパパになるんだろうなぁ。あ、完全に物語飛び出て妄想の域になりました。トオルの応援、本当においしかった。4人の思い出話で「おいしいところ、もってくんだよ」って言ってたけど、当時も本当こうやって掻っ攫ったんだろうな。
大さんは普通の人生を歩んだ「真人間」って以前ブログで言っていたとおり、序盤まではそうだったんですよ。見てるこっちも「大さんも普通の人間の役できるじゃん!!」って思ってたのに、最初に応援に駆けつけてあの謎の動き!そして極めつけは5年後ですよ。特に千秋楽。着流しに刀で「今、侍やってんだ。女房と子供は居なくなった」って。本当太志じゃないけど「5年の間に何があってん!」ですよ。
遠山さんは今回は控えめ。でもないか?「ナイス バック!!」がしまいには面白くなってきましたからね。遠山さんご本人の芝居ではないですが、合間に挟まれた「作品展」どんどんシュールというか難解になる作品がなぜか恐怖。
この出番でこのインパクトは五明さんですよ。もうずるいのひと言。出で立ちからしてずるすぎたんですが、なにより「お仕置きの対象になりました」からの完全に異常者然とした感じ。千秋楽なんて誰のかわからない、たぶん前回のお仕置き対象者(?)の骸骨片手ですから。もったいないって言ったら確かにそうだけど、インパクトは誰よりもだったなぁ。
女優さんは前述した鈴木さん以外にお二方。黒松病院で、むっちゃ格好いい歌声披露だった川崎さんが、今回は昔の杵柄プロレスで大活躍。ボンちゃんは最終的に死んでしまうかと思いました(笑)しかしむっちゃ格好いいのね。ラリアットをあんな近くで見たの初めてです。もう一方は若尾さん。あの安達さんと互角、時には言い負かす勢いで言い合ってるって凄いですよね。テンポもいいし、キャラクターもいやみじゃないし良かったです。


カナリア班に外れなしだなと改めて思った「放課後アゲイン」でした。

*1:ニュアンスで感じてくださいよ