神保町花月『車谷太郎の一生』

脚本:牧田 明宏
演出:浅野 泰徳(ジャングルベル・シアター)
出演
グランジ/クレオパトラ/えんにち/インポッシブル、
伊藤真奈美(劇団THEフォービーズ)、川崎あさみ
あらすじ(公式HP)
一代で巨大外食チェーンを築いた男。彼の波瀾に満ちた人生。
そして、その光と影。追憶の彼方にボクらは何を思うだろう?


さくっと感想だけでも。
芝居の題材としてはとても面白いのに、どこかちょっと勿体無い感じがしたのは何でだろう?時代ごとのぶっつり切れる感じがもうちょっと何とかならないものだろうか?でも五明さんの早替えを考えると、暗転の多さも仕方ないかなと。


ということで五明さんと大さんのW主演ですね。特に五明さんは、素晴らしかった。芝居が進めば進むほどどんどん五明さん演じる車谷が憎くて、出てくるだけで嫌悪感を感じるほどということはどれだけ芝居が巧いんだって話で。最初はちょっとだけ同情できる人間らしさも持ち合わせていたのに、だからこそ大さん演じる宮田は気にかけていろいろと世話を焼いていたんだろうから。それがどんどんエスカレートして、見ているこっちが宮田に感情移入すればするほど憎くなる車谷を本当に憎憎しく演じてたのが印象的。
宮田役の大さんも、今回はいつもの神保町の「大さん」な演じ方を封印して救われなくとも本当にいい人な宮田を熱演ですよ。最初、板場修行時代に車谷に名刺を渡して車谷を気にかけるところは凄く素敵な表情だったし。小さいながらも自分の店を持てた、奥さんとも巧く行っているささやかながらも幸せだった瞬間が車谷の出現でこれまでの悪夢がよみがえった瞬間のあの絶望に満ちた表情は、胸を突きました。本当大さんのいいところが前面に出たお芝居だったなぁ。
遠山さんはストーリーテラー。最初のほうは、遠山さんを使うにはもったいなーなんて思っていたんですが、ラストの追い上げが凄まじかった。あの一瞬の為の2時間だったんですね。畳み掛けるように車谷に語りかけ、カーテンを開けるあの瞬間、「あ、この役は遠山さんくらい巧い人じゃないと説得力が出ない」って感じました。なんて贅沢な役者の使い方。
女優陣は信頼の伊藤さんと、見るたびに新たな魅力の川崎さん。伊藤さんは本当見るたびに、次はどんな表情を見せてくれるんだろうってわくわくします。今回も車谷と付き合っているときは自信の欠片もないような女の子だったのに*1、宮田と一緒になって、宮田の人柄によってでしょうね素敵な女性に生まれ変わっているなんて。川崎さんは五明さんに対するドSっぷりに笑わせてもらいました。あー笑いがわかる女優って本当神保町には不可欠ですね。こぶしの利きすぎた津軽海峡も堪能。
脇の皆さんは時代時代の出演なんで、彼らのファンには物足りなかったのかも。クレオパトラの桑原さんが相当なキャラ迷子になってたり、アイパーさんがキャラ転換していたり、望月さんが井元さんとインポッシブル的な動きをしてみたりキャラ図鑑みたいになってましたね。
ストーリー的には最後のこれまでを覆すような展開が好きなんで楽しかったです。やっぱりグランジの演技はいいなぁって再確認した班でした。

*1:舞台転換を兼ねた、遠山さんとの攻防はさすがですね。