神保町花月一周年記念公演「心」

脚本:堀江 B面(劇団THEフォービーズ
演出:三橋 潔(ナルペクト)
出演:
犬の心、チーモンチョーチュウグランジ武内由紀子
水野以津美(劇団THEフォービーズ)/
博多華丸・大吉(1周年ゲスト)

去年の7月7日に開館した神保町花月もめでたく一周年を迎え、記念公演3作品が上演されることになりました。今日はその1本目。最初は平日のみの公演ということで見ることをあきらめていたのですが、開演時間が変更になったため無事見ることが出来ました。そして見終えた後、諦めていたらどれだけ悔やんだだろうと思い安心しました。
実はこの頃の神保町花月の公演に、若干のマンネリ感や勢いのなさを感じてました。開館してしばらくは、「これはもう一度みたい」と思うものが多かったのに・・・と。でも久々に「そう、こういうのが見たかったんだよ!!」って思う作品に出会えて、嬉しかったです。


勝手な思い込みで、犬の心主演と思って見に行った為に個人的には嬉しい誤算になったグランジ遠山さんの主役。何本ものグランジ出演作品を見て、見れば見るほど遠山さんの演技が大好きになっていった1年でした。だからそこ、この記念すべき作品でこんなにがっつりと遠山さんの芝居が堪能できて本当に幸せだなと。人との付き合い方が下手で、人の気持ちに鈍感で、何やっても巧くいかないダメな男がもらした「この世に自分と自分を理解してくれる彼女だけいればいい」って思っている、その心底ダメな感じもリアルでした。だからこそ、タイガーマスクに出会って「人の心が読める」手段を得た時に、分別が付かないくらい多用してしまったその弱さも納得がいきました。弱い人間だからこそ、薬の効果に頼りきりになってでも人の心を読み、上へ上へとのし上がって周りが見えなくなっていく様子が、その過程を本当に丁寧に丁寧に演じているから違和感無く嫌悪感を抱けたのだと思うし。「人の心を読みすぎた」代償として今度は自分の心が人に漏れてしまう、その事実を受け入れられずタイガーマスクを探し公園へ行くときの表情が絶望と、一縷の望みと、焦りいろんな感情がまぜこぜになった感じが凄く伝わって、明らかに非は彼になるのに同情を感じてしまうほどでした。もうね、べた褒めのベタ惚れです。
白井さん扮するタイガーマスクなホームレスとのやり取りも凄く好きでした。出会いは突如心を読まれる、遠山さんの「パニック!!」と、白井さんの無邪気な無茶振りに笑わせてもらっていたのに、逆に心を読まれるようになって、タイガーマスクのもとに行ってからの2人のシーンは白井さんのふり幅の大きい演技で相乗効果のように恐怖感が高まって、ぞくっとするほどでした。
上記のように次に目を奪われたのは白井さんです。初めて「MOMO-TARO」で演じる白井さんを見たときから、彼の有り余るギャップには、見るものを惹きつけて止まない魅力がありますよね。今回も遠山さん相手に遊ぶところはとことん遊んで、翻弄しておきながらいざ確信をつく芝居になった時に一瞬で纏う鋭さがたまらないです。今回も、遠山さんの周りをぐるぐると回りながら「お前が心は読めたほうがいい」っと選んだんだとじわじわと追い詰めていく姿は目に付いて離れなかったです。普段が可愛い分、残酷な役がとても似合いますね。なのに最後の最後のあのかわいらしさは反則以外の何者でもないでしょう。本当ずるい(笑)
ずるいって言ったら五明さんを置いては語れないです。キャンディーちゃん。五明さん久々のキワモノ(笑)もう出オチ。キャンディーちゃん単体でもかなりなのに、No1な菊池さんと来ちゃダメですよ。もう見ているこっちがどこを見ていいやら。それでいて演技は本当にお上手なんで、途中からは普通にオカマに見えました(笑)足癖は悪いし、バケツでお酒飲んじゃうでしたけど。心の声が聞こえてしまった瞬間のあの怒ったような、悲しいような表情が忘れられないです。
ある意味菊地さんのNo1ホストも笑いどこ(失礼)だって物語中盤まで「No1は太客のオカマと旅行中」って出てこなくて、ここまで出番がないのが五明さん&菊地さんってなったらどっちがどっちでもワクワクしますけどその想像を上回るインパクト。しかも表情がいいもんだから、舞台の端と端で演技されると目線が散って困る。通常ならこの流れなら主役を見ておこうってなるのに、目の端でいい顔しているんだもん、みんな。
そんな演者が犬の心のお2人。池谷さんなんて、金髪@小池徹平&TMレボリューションなのに途中からそれが気にならない感じ。MOMO以来、がっつり主役な池谷さんが見れてないので、1周年公演では久々に見れるかなと期待していたので、その点に関しては若干残念でしたけれどもね。本当そろそろ、シリアスだったり残虐だったりな池谷さんが見たいなと思います。押見さんの演技もすごく好きなんですよね。これ、勝手な想像なんですけど、押見さん演じるホストが爪を研ぐ仕草って孤独を示していたりするんですかね?個人的なイメージですけど。中盤、遠山さんのことを信頼し「No1になるお前について行かせてくれないか」となってからは研いでなかった気が・・・。また裏切られたとわかったとき、研ぎだしたので。ま深読みですけどね。あの裏切られたのか、半信半疑で遠山さんを詰問するときの表情が本当、悲しいやら悔しいやら情けないやらでいい顔してましたね。
大吉さん&大さんはもはやガヤ(笑)大吉さんのひと言ひと言がまさに大喜利。新しい源氏名での、相方さんを表しての「濡れたグレムリン」は忘れがたい。大さんはま、やりたい放題ですよね。いいです、たまに本気の芝居してくれれば(笑)かたや華丸さんは貫禄!ホストクラブのオーナーが似合う。でもって白スーツが似合う。時たま急に挟まる児玉清に不意打ち。
女優さんは神保町でおなじみの武内さんと水野さん。武内さんが普通にNo1キャバ嬢に見えるのよ。赤いドレスがはまりますね。一番残酷な役かもしれないですよね、このキャバ嬢。No1を狙える、いい男しか相手にせず転落の片鱗が見えた途端掌を返す。No1キャバ嬢だから、水商売の酸いも甘いも知り尽くしているからこその行動だなぁと。No1にはNo1しか似合わないんですよね。水野さんは、ダメな遠山さんを支え、裏切られてもわかめご飯おにぎり作って待っててくれる男にとって夢のような女性。大さんの「角川映画のヒロインみたい」って比喩はばっちりすぎるでしょう。個人的にはあんな暴言はかれた男を温かく迎える度量なんてあってたまるか!なんですけど(笑)、ここは作家(男)の夢と希望が詰まっているんでしょうね(笑)
お友達やネット情報によると、以前上演した「スターの光!」に良く似ている話だそうですが、私はそれを見ていないのでかなり楽しみました。なんせストーリーががっつり魅せるタイプだったのが嬉しかったですし。その芝居を演じているのが、個人的に好きな芸人(お笑い芸人としても演者としても)だったので大満足な1周年記念公演でした。
さ、あと2公演楽しみです。