神保町花月『籠の城』(10/11,10/12,10/13)

脚本:田所 仁(ライス)
演出:家城 啓之(カリカ
出演:
林克治カリカ)/犬の心/しずる/関町知弘(ライス)/かたつむり 他
あらすじ(公式HP)
ここは支配する城。
そして支配される籠。

シュール5だけでの神保町花月公演。数回足を運びました。
まとまらない感想な上、かなりネタバレしてます。
しかも長い。気持ち悪いほど長いです。

ウミネコ:押見
ヤマシギ:村上
ヤツガシラ:関町
モズ:林(かたつむり)


伝達:池谷
刑罰:林(カリカ
評価:池田
監視:中澤

あらすじは、他者様のブログで上手にまとめてくださってたりするのでそちらを参考にしてください。そういうのが得意でないので・・・。
感想のみを。
1回目を見て思ったのが、とにかく演出が好きで好きで仕方なかったということ。嬉しかったんですよね。家城さんの演出を見れたことが。それが幸せで幸せで。乙女少年団が大好きだったので、「あーやっと家城演出見れた」って幸福感で一杯でした。これまでの神保町花月ではあまりなかった、全体に暗いトーンの舞台。特にガラス工場の暗さ。だからこそ印象的だった「城側の人間が反旗を翻したとき」の強い照明。そして何よりラスト、伝達の感情を引き立たせ見ている側にものすごく強烈な印象と余韻を残したスポットの使い方。後は家城演出を観劇後は必ず頭に残る、曲の使い方。今回はサカナクション。これが本当に効果的に使われてて。ヤツガシラの処刑後、「そんなの関係ねぇ」の前後の曲の抑揚の付け方でよりいっそう台詞が引き立つのがたまらなかったです。このシーン、本当に好きでした。そうかと思いきや、ヤツガシラが城に侵入するシーンや、刑罰の銃乱射のシーンのギャップがまたこれもらしい演出で、にやにやしちゃう感じ。本当、芝居の隅々まで家城色なのが嬉しくて嬉しくて。あと印象的だったのは、映像の使い方。特にOPの映像の「台詞のチョイス」が、2回目以降は「ここをクローズアップするのか」と驚いたり。あのチョイスは、完全に家城さんのセンスなんだろうなぁ。ひとつ作る側と、見る側でこんなに受け取り方が違うのかと思ったのがラストシーン。演出としては「あんなにピンスポが長かったら面白い」という意図だったって言うのに驚愕。あんなにぐっとくるシーンになったなんて、池谷さんの表現力が勝っちゃったんですね。


作品については、こんなに観劇後に色々と友達と「あーでもない、こーでもない」って喋ったのは久々でした。見れば見ただけ受ける印象も違うし、解釈も人それぞれだし。最終日のトークライブで田所先生がお話してくださったので、今更自分の考えを書くのも恥ずかしいですね。ただ、みんなでお話している中で、突拍子もない説が出てきたりと本当に楽しかったです。誰に感情移入するか、誰を一番目で追っていたかによっても受け取りかたも変わるだろうし。個人的に、一番感情をぐっと動かされたのがウミネコの「ないのか?」のシーン。このときのウミネコの台詞のトーンと、その前後の評価の表情が相まって「悔しい」とか「悲しい」とか「情けない」とかいろんな感情が絡まっちゃってぎゅっと胸が締め付けられました。追い討ちを掛けるように放った、評価の「最初の人には見えたんだろうね。くっきりと大きくて頑丈な鍵が一杯ついた扉が」って台詞にも。2回目以降に目が離せなくなったのは、モズが「扉が見える」シーン。これもウミネコの「見えるのか?」がぐっと。特にこのシーンは、2回目以降は塀の側まで来てからのモズの感情が本当に良く伝わってきて泣けてしまいました。個人的には、最後に伝達がウミネコに言った「自分が必要だと強く願うと、それが現れてくる。」「お前も導いてくれる存在を欲していた」(ニュアンスですみません。)この台詞がなくても良かったかなと。丁寧なんだけど、もっと突き放されても良かったかなって。ま、「トイレ=塀に向かって立ちションしてる」が最後まで噛み砕けなかった自分が言うのもなんですけど。これはトークライブで先生の意図が聞けてよかった。あの時、ウミネコがそういった後のヤマシギの表情は気になったけどそこまで明瞭な答えを導けなかったもので。先生のお話で一番衝撃だったのは『実は伝達という「存在」はヤマシギが作り上げた。ウミネコの前に現れた時はただの導く存在。』ということ。これは本当に驚かされました。その解釈を知ってから、物語を自分の中で反芻すると、また色々と違う感情を得られそうです。


次は演者についての感想を。
『伝達』は本当に池谷さんは素晴らしいんだなとしか表現できない自分の語彙のなさが不甲斐ないです。近頃の池谷さんの役柄がポップで軽い感じの役が多かったからこそ、久々に見た「伝達」という役柄に目を奪われちゃいました。独特の華やかさを持っているから、舞台上に居る時はどうしても目で追ってしまいます。ちょっとした仕草や、表情を見逃したくないと思ってしまう。特に、ヤツガシラの処刑の時の表情や刑罰が銃を乱射しているときの「申し訳ないような、でもちょっと面白がっているような」表情がなんとも言えず。そして何よりも惹きつけられた、ラスト。ウミネコを城の外に送り出してからピンスポットの表情まで、どれもが切なくてたまらなかったです。それまでは「微笑み、悲しみ、最後は微笑み」で終わっていたのに、千秋楽だけ最後に「悲しみ」をも表現しててこれには思わず声が出そうになるほどどきりとさせられ、同時に喜びの裏にある悲しみが直に伝わって涙が止まらなかったです。


『刑罰』の林さんは、最初の登場シーンで場がぴりっとしまるのが肌で感じられるところが存在感のなせるところですよね。特に、籠の人間の放送を聞いたときの1回目の「処刑だ」の言い方が本当に冷淡で、冷酷で。一度、その台詞の前に「笑った」ように見えたんですよね。その笑い顔が人間が怒りを通り越したらこういう顔をするんだろうなって表情で、息をのんでしまいました。刑罰は、今回のキーとなる「旅行記」を読んでいるんだけれど、城側の人間としてはここにいた方が「楽して、幸せに暮らせる」から外には行かないと言っているけれども、本当は外の世界が怖くて仕方ないのかなとも思ったり。だからこそ、「外の世界を見てみたいんです」と初めて自分の意思をもって違反を犯したヤツガシラを処刑してもイライラが収まらないのは羨ましいと思ったのかなと考えてしまいました。そんなシーンがあるかと思いきや、スーツへのこだわりの面白さ。想像してみましたけど、正三角形のサラリーマンの破壊力ってたらないですよ。「19でも21でもなく、20%」そしてやっぱりしっくりくる、林さんとピストルの相性の良さ。みんな林さんにはピストル持たせたいんでしょうね、わかります。


『監視』の中澤さんはもうね、ずるいのひと言ですよ。「おはなちゃん」に始まり、名作駄作こもごもでしたね。私は「土地関係の~」が好きです。あ、あと「本降りになるなー、本部長」も。高笑いも、中澤さんの声だと笑うしかなくなりますよね。その高笑いが災いして2度ほど階段から落ちてましたけど。運よく?2回とも見てたんですけど、1回目にど派手に転落した時の池田さんの顔が忘れられません(笑)


『評価』の池田さんは本当にフラットにずっと高水準の演技なのが本当に素晴らしい。毎回ニュアンスを変えて台詞を言ってみたり、動きを変えてみたりと冒険しているのに打率が高いんですもの。「まったねー」のトーンがとても好きでした。ウミネコも言っているけれども、評価って怖い存在ですよね。評価のひと言で、仕事も左右されるし刑罰を与えられたりもするし。そんな存在が、キャラクターとしてはとても軽いとはまた違うんだけど明るいの方がしっくりくるのかな?そんなスタンスで存在するって言うのが、怖いなって。本当の「評価」って、監視と飲んでいたり籠の人間に拘束されたときの感じなんだとしたら、「評価」として接しているときはある程度作ったキャラクターなんだと思ったらやっぱり怖いなと。後は、拘束後ウミネコが「扉」の存在にだんだんと疑問を持つ過程を見ている評価の表情が本当に秀逸で。途中から笑いをこらえられない様子とかが、見てて籠側の人間の気持ちになっていると悲しくなって悔しくなって。そういう敗北感ていうのかな、それを感じさせる表情は本当に良かったなぁと。楽しいシーンで好きだったのは、ヤツガシラとのシーン。ペンについたふわふわしたので、きゃっきゃしているさまは可愛らしかったです。しかし池田さんの笑顔は本当に気持ち悪い(褒めてますよ。大絶賛です。)


ウミネコ』の押見さんは静の演技も動の演技もいいなぁと再確認でした。「ヤツガシラが殺されるようなことしたか!」とモズやヤマシギに対して、怒りと悲しみをぶつけながらも人間として大切な「意思」を持つことを問う感情を爆発させた演技も良かったし、途中鳥の鳴き声が聞こえヤツガシラを思って涙を流しながらこぶしを握り締めるところも本当に胸を打ちました。こんな感情を爆発させるシーンに、「そんなの関係ねえ」を入れても演技でぐいっと軌道を戻せる力がありますよね。一方笑いも主役にしては多かったですよね。「やってみせて。本気でだよ。」とヤツガシラにお願いされて、ちょっといらっとしながら(笑)やって見せたヒーロー像がなんともいえない感じで。特に千秋楽の弾けた感じがたまらなかったです。あと、走りっぷり。公演後の楽屋ブログで、演出で途中から「ウミネコは足遅いよね」ってこうなったそうですが、あのうつろな目つきといい「ドスドスドスドス」って足音といい笑わせてもらいました。


『ヤツガシラ』の関町さんは、先生が一番魅力を理解して書いたんだなと。前半の無邪気で可愛らしい、子供のようなヤツガシラは関町さんしか体現できないキャラクターだなと。「ドウテイヅラ?」「フウゾクジョウ?」と知らない単語を繰りかえすときの狡い言い方ももちろんですが、もっと外の話を聞かせて欲しいと言い出す時の「ウミネコ!!」っていう呼び止め方が気持ちの高揚が声に表れているようでなんか好きでした。そんな可愛らしさの後だからこそ、処刑のシーンが際立って。刑罰からピストルを渡され「命令」された時の表情。ピストルをこめかみに突きつけてからの、苦悩と葛藤の表情。そして、「出来ません」と初めて自分の意思を持った表情。どれもが魅力的でした。特に「海が見てみたいんです」と城側の人間に外の世界の素晴らしさを訴える表情が、本当にうっとりとしててだからこそ悲しくて。「伝達」の「ヤツガシラは、死んでいると思い込んでいるだけ」「『ピストル=死』と思い込んでいるんだよ」という台詞を聞いた後、改めて見直すとこの処刑のシーンがよりいっそう切なくなりまして。自分の意思を持たないものの思い込みの強さと心の弱さに涙が出たというか。しかし関町さんは本当に死ぬのが巧いですよね。ぷちっと音を立てて糸が切れたように死にますよね。このシーンはヤツガシラも良かったけれども、彼を囲む城側の人間も個性が出てて良かったですよね。いっぺんに5人を目で追えない自分に腹が立ちましたもの(笑)評価&監視の「できない」ってなんだ?っていう言葉自体が理解できない(監視「日本酒か?」(笑))様も、刑罰の驚きながらも一瞬でそれが怒りに変わる瞬間も、伝達の心底驚いた様子も。伝達の驚きは「できない」といったことよりも「本当に自分の意思を持ったんだ」って驚きも加わっているんだろうな。本当見応えのあるシーンでした。


『モズ』の林さんは本当繊細な芝居をしますね。普段の芸風から一番かけ離れているかも(笑)籠側の3人が扉の前まで来たシーンを2回目以降見るときは、モズから目が離せなかったんです。ヤマシギが「本当に扉なんてなかったんだな」って言ってる横で、モズは悔しいとも悲しいとも言えない顔で、出口があろう場所を見つめているんですよね。そして「行けない、俺はいけない」って言わなくてはならなかったモズの気持ちを考えたら胸が締め付けられて涙がこぼれました。ウミネコの「見えてるのか?」のひと言でたが外れたように「怖いんだ」と繰り返すのが切なくて。「俺はみんなみたいに強くなかったんだ」って悔しいし、苦しかったんだろうな。だからこそウミネコが「ここに残るとモズが決めた、それも立派な意思だ」「意味あることだ」という言葉に救われただろうなと。だからこそ「ありがとう」が際立ってました。思い返すと「ここではそれ(命令あって動くこと)が普通なんだ」と一番良く口にしていたのはモズだったかもとか思ったり。そんな繊細な芝居も、前半の軽くて調子のいい芝居があったからこそ引き立つというか。もう、ここまで書いててなんですが作家先生も演出家先生に踊らされっぱなしです。


最後に『ヤマシギ』の村上さん。トークライブでは田所先生に言わせると「どうでもいい役」なんておっしゃってましたが、一歩間違えたらただの語り手になってしまうところを本当に愛らしいちょっとがさつで無邪気な素敵なキャラクターに昇華した村上さんは凄いと思います。先生のその発言も信頼の裏返しですよね(笑)初めはウミネコを異分子と扱っていたヤマシギが、ヤツガシラの死に直面し、ウミネコの想いに心の奥底に眠ってた「外の世界を見てみたい」気持ちを掘り起こされた過程を本当に丁寧に演じているなって。実は最初土曜日に見たときはこの心の変化が、若干唐突に感じられてしまったんですがさすが残り2日で完璧に仕上げてきましたよね。ご本人もおっしゃってましたが、語り手を担っているので役を掴むのが大変だったとか。それを感じさせないくらいヤマシギでした。思えばウミネコはもともと外の人間なので、純粋に籠から外へ行ったのはヤマシギだけなんですよね。最初に書いた「伝達」という存在を与えたのがヤマシギといいかなりのキーパーソンですね。もっとヤマシギの心情を掘り下げたところも見たかったな。しかし、ヤマシギの最後、鳥に導かれるように外に出て行くところは本当にキラキラしてて眩しかったです。


ここからはもっともっとまとまらなかった、印象的だったところの羅列です。もうどう書いて良いかもわからなかったので。
・オープニングのウミネコの語りと暗転がループする、それだけで一瞬にして世界に入り込める感じ。
・最初は完全に異分子なウミネコが、ひと月経って「指示があって行動する」ことに慣れたと伝達に言えてしまう、そんなところなんだと思ったら本当に怖かった。
旅行記を聞いているときのヤツガシラの狡さ(笑)
ウミネコが「あいつら壁に向かって立ちションしてる」と言ったときのヤマシギの表情。
・評価「強く願ったからこそ、一番最初の人には見えたんだろうね。大きくて、頑丈で、鍵の一杯ついた扉が」
・「死んでいると思い込んでいるだけ」「生きていると教えてあげると、直ぐにでも起きるよ」の伝達の声のトーン。
・はっと気付いてからの、ウミネコ「ないのか?」の言い方
旅行記を監視が拾ったことで、「変わらなきゃいけない」城と籠に希望を見出せること。
ウミネコ達の「大きなミス」と、評価を嫌う監視と伝達の存在。切ない評価。
・ヤマシギによる「籠」と「城」の説明。「籠=グー、城=パー」。支配される、支配するの構図。


とつらつらと書いてしまいました。ストーリーはそんなに複雑ではないけれど、こんなに話しこんでて楽しい芝居は久しぶりでした。どの役柄についても語っても語り足りないくらいどの人も魅力的で。久々にもっと見たい欲求が。そしてますます田所先生の頭の中身、発想というよりは表現力に俄然興味深々です。
しかし、演者の皆さんが普通に「田所先生」呼ばわりなのがもうたまらないです。本当にいいものを見せていただきました。