神保町花月『前夜じゃ!』

作:吉田大吾
演出:押見泰憲
出演:
カリカ/犬の心押見/POISON GIRL BAND
ライス/かたつむり

シュール5班での神保町花月第2弾。今回も『5』だけど、しずるOUT→かたつむりINで、かたつむり大活躍。2つ前の神保町にしずるは出てたので仕方ないけれども、どうせ出るならこっちに出てほしかったなーなんて思いながら。つらつらと感想たれ流します。(敬称略で失礼します)


脚本は「かくれんぼ」もかなり大好きだったポイズン吉田さん。前作の派手さはないものの、ちょっとメルヘンで、かつ主題は結構シビアで、台詞のひとつひとつが胸を打つ芝居が好きだったので結構期待して見に行きましたのにこの満足感。土曜日と日曜日の2回見たのですが、日曜は千秋楽特有の盛り上がりでしたが感情の表現の丁寧さは土曜のほうがあった気がします。土曜に見たときのほうが、台詞がするっと心に届いて何箇所がぼろ泣きしてしまったところも。いろんな人のいろんな思いの詰まった「前夜」の出来事が丁寧にかかれてて良かったなと。そんな中でもすべてがすべてを丁寧に書くんではないところがよかったなって。
青山がずっと好きでいたシズカと、結婚前夜の男が結婚をする幼馴染のシズカが同一人物なのかどうかを最後まではっきりさせなかったのも好きな脚本だったし。大将と病気で亡くなった友達の関係も。15年も山さんが「本当は大将を死なせたわけではないんだ」ということを言わなかった理由とかもはっきりとさせなかったのが、見終えた後に本当に大将のせいで亡くなったんではないのか?どうなのかとか考えられてよかったなと。


押見さんの演出は劇団ガッツで数度見ていたのですが、久々。実はちょっと苦手だったんだけど、結構好きでした。各出演者の紹介の仕方とか、回想シーンの見せ方とか。特に好きだなと思った演出がエピローグ。普通ならナレーションとして流して良いところなのに、しかも凄くいいセリフがあるのにあえて阿部ちゃんにその場で喋らせる演出がよかったです。あれって本当にいいセリフだから演出というか芸人さんとしての照れ隠し的なこともあったのかなーって邪推もしちゃいます。『大切なことのある前夜。あなたの心臓の鼓動で誰かが踊ってくれてます』(うろ覚え)本当にこの台詞好きです。あとこれは演出なのか、演者の遊びなのかはっきりとはしませんが、阿部ちゃん以外がずだだだーってこけていくところとからしくてよかったな。


・出頭前夜の男:カリカ・林
やっぱり林さんの芝居は見ごたえがありますね。あの貫禄は普通でないですよ、大将ぴったりでした。阿部さん演じる息子から「今までありがとうございました」と頭を下げられて、男泣きに泣くところは胸がギュッとなるくらいでした。それまでが結構飄々とした感じだったのが、急にぐらっと感情が動く感じが素晴らしくて本当いいシーンだったな。2度目に見て鳥肌がたつほどと思ったのが上京する息子にどうしても明日上京しなさいと説得するのシーンと、メロンちゃんとのシーン。本当の親子じゃないとわかってから見る、息子が別れを渋るのを戒めるところとか、亡くなった奥さんとの馴れ初め等を聞かれた時の大将の反応とかが本当に丁寧に演じていて心を打ってやまなかったです。


・自殺前夜の男:カリカ・家城
一番好きな役でした。ずっと好きで好きで何度も告白して、でも友達以上にはなれなくて。そんな彼女が明日結婚してしまう。自分が幸せにできないのならば、死んで何らかの「パゥワアー」を持って彼女をずっと見守ろうと心に決めた男。でも本心は自分にとっては「急にあらわれた」彼女の結婚相手が自分よりも本当に彼女を愛しているのかわからなく不安な気持ちで仕方ない男。その心の動きが本当に丁寧に書かれていて、演じられていてもう胸がきゅんきゅんしてしまいました。「パゥワアー」とか言っているときはかなりバッキバキで怖いくらいなんですけどね(笑)特に結婚前夜の男に今すぐ彼女に電話をして「愛している」と言えと迫るシーンは胸が締め付けられそうで。「恥ずかしい」となかなか愛の言葉を言わない男に『「愛している」っていうのは恥ずかしくない』と絞り出すように叫ぶ姿が焼きつきました。だからこそその後の「万歳からの乾杯」って台詞と吹っ切れたような表情が印象的でした。


・上京前夜の男:POISON GIRL BAND・阿部
なんか吉田さんの阿部さんの見方というか接し方がなんか少しわかった気がした役柄でした。阿部ちゃんのあの顔に、山さんのいう「あの甘ったれ」って表現がぴったりだなと。へらへらしたなかにも、父親のことを思っている感じも甘えている感じも出ているし。本当の父親のことも知っていたことを明かす前の父へのお礼とか本当に良かったです。阿部ちゃんと言えばカーテンコールでも言っていたけど、後日談でのぶっ込みですよ。千秋楽の「安馬」Tシャツには撃沈でした。本当にずっとにやにやしてるんだもの、あれはずるい。そういえば見終えた後お友達とも話していたのですが、母親が本当の父親について言い残したシーンを回想としてみたかったなと贅沢を思ったり。


・手術前夜の男:犬の心・池谷
とにかくメロンちゃんが可愛らしすぎて(笑)しぐさもちゃんとおカマちゃんらしく丁寧なんですもの。お化粧直しもひげを気にしてか顎中心だし(笑)メロンちゃんが明るくて、朗らかなほど後々の父親とのくだりにぐっと深みを増してて池谷さんの凄みを感じたというか。父親に「息子は2年前に死にました」と言われた時の悲しい顔が忘れられません。この親子関係もすごく好きでした。不器用で、お互いを思いやっているすごく素敵な親子だなって。手術前夜の父親との電話で、メロンちゃんも父親も泣いててそれを見て母親が「いい歳の男がなにない泣いてるの」ともっと泣きながら言ってたっていうのがたまらなくて。ああ、思い出してもじんわりする。


結婚前夜の男:ライス・関町
カーテンコールでも、トークライブでもとにかくみなさんが声をそろえて「こすかった」「やりすぎだ」とおっしゃってましたが、もう私は慣れてしまったのがそんなに気にならず(笑)映画マニアっぷりを露呈するシーンでの「すぽーん!!」は確かにやりすぎかとは思いましたけど・・・。関町さんの風貌が、恋愛に奥手というか不器用な感じがピッタリで。その不器用な感じだからこそ、青山に言われてシズカに「愛している。これから幸せにするから」というシーンが引き立ったのかなと。とっても可愛らしかったし。あ、初めて店に来た時にちょっと待ってくれと店外に出された時の扉越しの関町さんって面白かったな。家城さんが撃沈するってよっぽどですって。


・特攻前夜の男:ライス・田所
田所さんのセリフで始まるこの舞台。この台詞がとってもわくわくさせられるもので期待感もぐんぐん上がるのがたまらないOPでした。おじいちゃんの「今は死に現実味がない。でもそれを悪いこととは思わない。」というセリフが本当に重みがあって、役に深みが増して。前回の「かくれんぼ」の時も思ったんだけれども、吉田さんって自分と同い年なのに考え方や語彙が豊富というか深いというか広いというか本当に尊敬するし、憧れます。青山が「好きだった人が結婚するので、自殺する」ということを「人を好きになる気持ちはだれにも止めることはできないから、自分の思うようにすればいい」って台詞も好きだったりします。なんかこういうセリフが出るから、青山がすごい速度でなついたのかなと(笑)おじいちゃんと青山のいちゃいちゃがかわいすぎました。おじいちゃんの最大の見せ場はあの時間をたっぷり使った移動ですよね(笑)永遠に続くんではないかとおもうほどの尺の取り方。「あー今回シュール5班だった!!」って劇中で思い出させられましたよ。最初のうちはおじいちゃんを眼で追っているんだけど、ある程度を過ぎるとその後ろの大将と息子に目が移っちゃうんですがこの時の大将の慈悲溢れる顔!!本当にいい顔するんだ。


・退職前夜の男:かたつむり・中澤
はまり役とはこのことを言うんだなという、最年少のくせに一番貫禄あるってどういうことですか?ナチュラルに定年間際の刑事でした。しかも人情もの、はぐれ刑事ですよ。基本やりたい放題なんですよ。おはなちゃんだの、わかめちゃんだの言いたい放題で。でもきゅっと締めるところは締めるんだものずるいよ。その感じが本当に巧く表れてるなと思ったのが息子のセリフに表れているなって。「山さんみたいな人が茶化してくれなきゃ、こんなこと言えないよ」って本当に的確に山さんのキャラクターを表しているなって。以前吉田さんが脚本を書いてたら、章吾のセリフばかりで今バランスを取って書き直しているとおっしゃっている意味がわかるなと。勝手に台詞が増殖しそうなキャラクターだ。


・初デート 初バイト 初路上教習の男:かたつむり・林
ずるいずるい、等身大にも程があるってくらい。ともすれば重くなる芝居全体を林さんの存在が邪魔するでなくポップにしていたなと。青山がいる店内での空気の読めない感じとか、そもそもの空気を読むレーダーとか。上京前の友達を前にきゃっきゃと喋っている感じとか本当自然ですごい。好きだったのは青山の回想シーンの時の無駄に男前なキャラクター。途中から渡部篤郎にしか聞こえないっすと思いながら。こういうの本当に無駄に巧いですよね。軽い感じがやりすぎに見えないのが巧いんだよな。あとはみんなで店で飲んでいるときに、カウンター越しにおじいちゃんとこそこそ、きゃっきゃしているのが可愛らしすぎました。あと、Tシャツ!林さんは衣裳が私服だったそうなんですがオバマtってなんすか!なんでオバマT持ってんだ?て話ですって。


・回想の人々:POISON GIRL BAND・吉田
どの役も印象深いです。シズカちゃんはスタイル良すぎて・・・。あの棒加減がなんとも言えなかったです。特に千秋楽の「私って自意識過剰!!」の言い方は爆弾です。青山が言ったシズカのセリフ「あなたなら絶対に女の子を幸せにできると思う」「あなたが好きでいてくれたから、私もずっと好きでいられた」この2つのセリフは絶妙でした。あと好きだったのが、おじいちゃんとの回想シーン。上官として特攻の命を出した後、ガラッと口調を変えていち同志として語るこの変化が、思いのほか感情のつぼを刺激したようで最初の時にボロ泣きしてしまって大変でした。特に「こんなこと言っては不謹慎かもしれないけれど、お前がいてくれて本当に楽しかった」って台詞が彼らのいい関係が凝縮されているようでたまらないものがありました。


本当にじんわりと心に沁み入るような、本当に大好きなテイストのお芝居で見れて幸せでした。うん、幸せでした。


このあとトークライブも見たんですがメモ取っちゃいないんで書き残しません。ただカリカトークおなじみの押見さんの謝罪の際はフラッシュ焚きたくて焚きたくて。