神保町花月「暗闇のラブソング」

脚本:山本渉
演出:山下哲也
出演:
ロバート/ブロードキャスト/かたつむり
延増静美(毛皮族)/ワダヤマブルー

楽屋ブログで何度も書かれていた「これまでにない演出」「客席と一体となる演出」これがなんなのか楽しみに見てきました。出演者も主演のロバート秋山さんの演技力も楽しみだし、脇を固めるブロード・かたつむりは好きで仕方ないコンビだしで期待しかない中で見たのにもかかわらず、かなりの満足度でした。
あらすじとしては、地方でCMソングを歌っていつか東京で歌手としてのデビューを夢見ていた秋山さん演じるミュージシャン(合田剛)が、チャンスを掴むも視力を失ってしまう困難に見舞われる。でも常にサポートしてくれるブロード吉村さん演じるカズキや、恋人の支えによって失明を乗り越えてデビューするという話。
主人公の視力が弱まる度合いによって、照明もだんだんと暗くなるという舞台でしか表現し得ない演出がたまらなく好きでした。タケシの視界はこうなるということを一緒に体感するので、感情移入もするっと出来だからそこタケシの気持ちもいたいほど伝わるし友達や恋人の気持ちも痛いほど分かるとても良い演出でした。クライマックスはタケシの視界にあわせて完全暗転の中でのライブシーンでして、これがタケシの歌声にこれ以上になく集中できみんなに感謝している気持ちが伝わりました。暗闇に慣れてから、その中でギターを奏でる吉村さんの表情がうっすら見えて、その顔がまた良い顔だったのでじーんとしてしまいました。
しかし秋山さんのポテンシャルは凄いですね。前半、特にロバートでの絡みのシーンは「あれ?これってロバートのコント?」ってくらいコントコントしているんですよ。でもぱんって一瞬で芝居の世界にぐいっと持ってこさせる力を何度も見せ付けられて凄みを感じました。エンディングでは、重すぎる役柄に「かたつむりがやってた役が良い」なんて仰ってましたが、もっと神保町でガチの演技を見せて欲しいです。
ブロード吉村さんが準主役ですね。彼の演技も見れば見るほど上手くて惚れ惚れしているんですが、今回の役柄も良かったです。全面的にタケシを支えていこうと「ずっと側にいる」と学生時代に誓った約束を律儀に守る姿勢とか、デビューも大事だけれどもそれ以上にタケシの体を心配して葛藤しているところとか。特に延増さんと台詞が聞こえないシーンで二人でタケシを思ってなくシーンが思わずぽろっと涙がこぼれてしまうほど良かったです。エンディングで吉村さんは「ギターが弾けたからこの役になった」って仰ってましたが、この役は吉村さんみたいな真摯な芝居をする人じゃなかったら説得力が生まれなかったのでありえなかったなと思いました。ってどんだけ吉村さんの演技好きなんだって話ですね。あ、今回の役のビジュアルが個人的にパーフェクトだったのを書き残しておこう。
房野さんはもうね反則!!前回・前々回と「メガネかけてないなんて!!」とプンスカしてたんですが、今回はメガネがないとかもうどーでもええと思うほどのインパクト。役名が「タンバリン女」ってなんすか(笑)台詞はほとんどなくて、感情の一切をタンバリンで表す女。午前はナース、昼はウエイトレス、夕方は秘書、夜はタンバリン奏者でコスプレ付の大盤振る舞いでしたね。最初は見た目に驚愕、次からは登場前にタンバリンの音が聞こえるとワクワクしてたんですが、もう最後のほうはあまりの房野さんの役のぶれなさに驚きでしたよ。おいしい役だなー。これを見れただけでも見に行ってよかったです。あ、純粋なタンバリン女の時の衣装が背中が大胆に開いたワンピースだったのに、全く見せなかったので勿体無いなーって。足ががっちりしてて笑った。やっぱり房野さんってメガネ無いとえらいことになりますね(失礼)
かたつむりは二人してずるい。章吾さんはアル中の医者って!病状説明とかやりたい放題なのに、決めなきゃいけない素敵な台詞は本当に完璧にこちら側に伝えてくるんですよ。そんなのずるいですって。本当彼はずるい。ずるいといえばOPの写真と、パンフレットの写真がずるいの極み。林さんは敏腕(?)音楽プロデューサーで移動はヘリ。顔も腕も真っ黒で、普通のことをギョウカイ用語風に言うって書き出しただけでやりたい放題振りが目に浮かぶ役どころ。ちゃらさがギョウカイ人ぽさに拍車がかかるかかる。
毛皮族の延増さんは初めて見たんですが、良かったです。毛皮族という劇団イメージがあってちょっと怖かったのですが(笑)凄くナチュラルで、タケシの隣で必死に涙をこらえている演技がたまらなく愛おしくて仕方なかったです。以前カリカコントでも毛皮族の女優さんを見たのですが、だいぶイメージ変わりました(笑)今度毛皮族も見に行ってみようかな。
そうそうこのお芝居、間にタケシとカズキが作ったCMソングを実際に作ったCMが流れたり(これがまた、脚本がCMプランナーさんだから完成度が高すぎて完璧!!)と映像を用いたり、またタケシの視野を効果的に見せるためか無駄な暗転がなく場面展開を可動式のふすまでやったりと新鮮な演出が多くてこれもまた見応えのひとつでしたね。あとすっごく印象的だったOPの演出。暗闇でろうそくを立てたケーキ越しの3人。そしてジッポライターのふたを開け閉めするかちゃという音と、ライターの火。凄くオシャレで幻想的で素敵だったな。
全体的に重い話で、芸人さんの性から試行錯誤を始めたエンディング。どうやら日替わりのエンディングになったようで。神保町に笑いより芝居性を求めている自分的にはシリアス路線のままでも良いのになと思ったりしますけど、本分が芸人さんですもんね(笑)

2周年記念公演はこっちのが良かったんじゃない?なんて思ったのは内緒です。