神保町花月「夕立の忘れ物」

作・演出:白坂英晃(はらぺこペンギン!)
出演:
パンサー/ミルククラウン/ふくろとじ/石井あす香

過去と現在を行ったり来たりのファンタジーでした。
パンサーの初主演も楽しみでしたが、それ以上に楽しみだった白坂作品。「黄昏」「晦の夜の果て」など派手さはなくとも心にじんわりと沁みる良い話を期待して見に行ってきました。
主演は尾形さん。交通事故で妻を亡くした男:鉄平。最初主役が尾形さんと知って失礼ながらも心配でしたが(ピースのシチサンでの演技っぷりからして)杞憂でした。数年たった今もなお妻を死に至らしめた罪に苦しんでいる不器用さが、ことあるごとに口をついて出る「すみませんでした」に表れててみているコチラが胸が締め付けられるというか。その反面たまにでる、パンサー尾形的発言もあったり。でもそれがそこまで不快になく。演出の妙ですかね。過去に迷い込んだ際に、このまま妻となる実花と出会わなければ彼女が死ぬことはないのではと思いつめる様や、自分の未来だけは見えないという実花に将来事故で亡くなることを伝えることが果たして良いことなのかと葛藤しながらも、我慢が出来ず言ってしまう様が凄い良かったです。またその伝え方がとても優しく真摯で、だからこそ実花もその話を信じることが出来たのかなと。実花がその話を聞き終えてなお「私はそれで幸せだったのかな?」と問い、答えに詰まる鉄平に「じゃあ、私と居てその人は幸せだったのかな?」と問う実花。それに鉄平「幸せだだったよ」と答えるのも良かったし、その答えを受けて「それでも東京に行く」という実花に「じゃあ、絶対にその日車に乗るなよ」この一連の会話が凄く好きでした。この会話を受けて、最後現在に戻り過去を変えず死んでしまった実花に「あれだけ乗るなって言ったろ?」という鉄平に、ちょっと恥ずかしそうに「忘れてた」という実花が可愛らしくて。その後の「さよなら」がものすごく切なく感じました。
向井さんはずっと謎を持たせた役柄で。最終的に鉄平が「あ!!」って思って気付いたり、向井さんの台詞で「これでいいんだよね?おめでとう、お父さん」というのがあるので、タクヤという青年は未来から来た鉄平と実花の息子と分かるんだけど、2人が確かめあう描写は無く客席だけ確信を得られるというのも素敵だなと。タクヤの心情描写はほとんど無く、最後に結婚20周年のお祝いとして鉄平に「あの森に言って来い。それが俺へのお祝いになるから」といわれたということは分かるけど、タクヤが若かりし父と多分ほとんど記憶に無いであろう母の姿を見てどう感じたのか気になりますし、そこを想像するのりしろを持たせてくれて良い芝居だなとも感じました。しかし向井さんは上手ですよね。ナチュラルに不思議な存在を演じれるって。
菅さんは実花の兄役。風貌からギャップのある花柄エプロンや、包丁姿サービスありで。所有する森で迷った人は家で保護するのがしきたりなんだと、さもあたりまえのように接する感じが自然でよかったです。なにより存在感があるから、これから楽しみです。
ミルククラウンの二人はさすがとしか言いようが無いです。特に悔しいかなジェントル。もう悔しい(笑)現在は妻子居る身ながら、10年前は女として生きている人で。かなりぶっ飛んだ役なのに、10年間の変化が2時間の芝居中で納得できてしまう演技が悔しいです。竹内さんは本当脇固めた!って感じで。笑いの部分を結構引き受けていたにも関わらず、締めるところはびしっと締めるしぐっとひきつける芝居をしますよね。本当素晴らしいの一言ですよ。
ふくろとじは久々の神保町ですって。けんちゃんの芝居結構好きなんです。ネタではあんなんですが多分彼、出来る人ですよ(笑)とにかく明るい、けんちゃんらしい役なんだけど、実は家族を全員事故で亡くし森に自殺に来たという思いを抱えた男性を良いギャップで演じてました。自殺を止められ「生きてても良いことなんて無い」と最初は抵抗するも、最後はその抵抗さえも諦めてしまう様が死ぬことすら出来なかった絶望感が見えてぐっと来ました。てつみちさんは実花の元彼で現ストーカーのDV男でして。これがまた気持ち悪い!粘着なストーカーから、一気にDV男の顔が見えた瞬間の豹変振りが怖いほど。
ただ一人の女優さん、石井さんはぱっと見は純名りさな感じ。透明感があって、森の声が聞こえ未来を予言できるという役柄が無理なく入り込める感じでした。こういう役ってともすれば安っぽくなりがちなのに、石井さんの佇まいが神秘的でしっくり来るのが凄いなと。そんな素敵女優さんなのに千秋楽には菅さん相手にぶっこむっていう(笑)
本当白坂さんのこれまでの作品も今回のも派手さはないんだけれども、しっかり心にとどまるというか観客の心の琴線にふわっと触れて優しくて柔らかな感情を揺さぶられる芝居が多くて大好きです。特に今作品は主人公カップルの、お互いを思う気持ちがとても大事にしっかりと描かれてて本当素敵なお芝居でした。