神保町花月『雨プラネット砂ハート』

作:福田晶平
演出:足立拓也
出演:
ライス/ジューシーズ/少年感覚
京本有加

1度しか見れなかったのが悔しくなるくらい、いい芝居でした。
あらすじは公式ブログにあるので省略。
出演者が9期生以下+女優さんととても芸歴の若い班だったのに、それを全く感じさせないとても見ごたえある芝居を見せてくれた班でした。もともとライスもジューシーズも少年感覚もコント師かつ演技力にも申し分ない人たちなんですが、彼らの演技とこの台本と演出で本当に素晴らしい舞台になったなと。


主演はライスだと重々承知の上で、ジューシーズ児玉さんから感想を書きたいと思います。とにかく児玉さんから目が離せなかったんですよね。いつもはあんななのに*1演じるとここまでか!と。前回主演を務めた「サンデー・マガジン・ニシムラ」の時も芝居中での、遊びの部分と締めるとこはきっちり締める部分の緩急のつけ方が本当に上手だなって、どこの劇団の役者さんですか?って感じだったんです。今回はその時よりも増してよかったなと。子供だけのシーンなどでジューシーズらしさを前面に出してふざけているのに、それを過ぎた時に一瞬で芝居の世界に戻せる力があるんですよね。コウイチに反抗的なときの表情、母親の写真を破られたときの絶望的な表情、子供だけで過ごす時のちょっと柔らかな表情、脱出を心に決めたときの緊張感と復讐してやるという思いの入り混じった表情、そして最後、コウイチの書いた手紙によって母親の死の真実を知って、またコウイチの本当の気持ちや優しさを感じたときの表情。全てにカイの気持ちがちゃんと反映されてて、カイの気持ちが見ている側にダイレクトに届いて涙腺を何度刺激されたことか。泣いているのにちゃんと言葉が届くのも素敵な芝居をする人なんだなとますますファンになりました。本当良かった。ただひとつ心残りがあるとすれば、あまりに児玉さんの演技に魅入られすぎて他の人の細かい演技や表情を拾いきれなかったところですね。


大人の中でも、子供達から全幅の信頼を得ているアンゴを演じた関町さん。本当に頼れる安心感を感じられるものすごいオーラを感じました。どっしりとしたシルエットも安心感に拍車をかけてるし、何よりあの声ですよね。本当に最高に男前の声帯を持ってらっしゃる。特にこの班は個人的に好きな声の方が多くて*2幸せだったんですが、関町さんの声は抜群ですよね。落ち着いたあの声だからこそ、子供達は全ての疑問を彼にぶつけようとしたんだろうし、彼の出した答えに納得がいってたんじゃないかなって。コウイチが外の世界に出て行くとき、「俺はあいつらの上っ面しかわかってなかった」と寂しそうにかつ尊敬をこめて呟くのと「自分も当事者だから判らない」と悲しいとも悔しいとも言えない表情の時がとても好きでした。普通の人をここまで普通に演じられるって、1公演前の遠山さんでも思ったんですがとても難しいことだと思うのに、軽々と演じてしまうのが見ててワクワクさせられますね。かと思えば、久松さんとの出し物はとてもシリアスでいいシーンなのに・・・(笑)コポコポという音がこんなに破壊力のあるものだとは思いませんでした・・・。


田所さんはとっても格好いい役でしたね。素敵でした。オープニング、明転すると田所さんの一人芝居から始まるのですが舞台の世界観にぐっとひきつける力があるように感じます。それは以前「前夜じゃ!」の時も思ったんですよね。相当私は田所さんの演技が心に引っかかるようです。子供達、特にカイに対する恐怖政治をしいているともいえる言動と、アンゴやシュージたちといるときの振る舞いに違いがちゃんとあって、最後になんでカイに対して辛く当たったかという真相が明かされたときに、それまでのことが頭にバババとフラッシュバックして一気に涙がこぼれました。これは本当ずるいですよ。カイが写真を持ってたと知ったとき、そしてそれを破り捨てたときどんな思いだったのかと思うと。特にコウイチが「特に用がなくちゃ来ちゃダメなのかよ」といいながら子供部屋に行ったときのことを思い返すと、コウイチの不器用な愛情が感じられて涙が止まらなかったです。それの集大成が最後の手紙だと思うんですが、手段はベタであれ手紙を読み聞かすという手法であんなに心掴まれるものですか?ってくらいでした。手紙の内容も本当に素敵だったんですが、何より一人ひとりに語り聞かす田所さんが良かったなと。各々の返事の仕方も好きでしたね。あとカイを殴ってしまったシーン。田所さんも児玉さんも声に迫力があるので緊張感あるとても素敵なシーンになってましたね。本当悔しいんですが、ラスト『誰を探しに行くって?』の台詞は感情がぶわっと揺さぶられて、胃がきゅっとなるくらい鷲掴まれました。ずるいよぉー。そんな格好いいのに出てきたらカエラちゃん*3なんだもんな。


松橋さんは一番子供っぽい感じで可愛らしかったです。ふざけるときは全力ですよね、彼は。それがまだ大人になれない感じが良く現れてていいなと。カイとリョーコが口げんかしているときの「また痴話げんかだよ」の言い方とか凄い好きでしたね。場が急にジューシーズっぽい!って時は松橋さんが噛んでますよね(笑)脱出のシュミレーションをしてるときの容赦ない無茶振りは、私は大好きです。
赤羽さんはとにかく可愛らしく、ムードメーカーな感じで。私は千秋楽を見たんですが、前日の夜公演を急病で休演されたらしくとにかく顔が真っ赤でまだ本調子ではなさそうでしたが、きっちり仕上げてきてましたね。赤羽さん演じるタイキの明るさで、子供達は大人の決めた矛盾や制限ばかりの生活でも仲良く過ごしたんじゃないかなって感じましたね。それくらい底抜けに明るい役がぴったりでした。
ガク役の向坂さんも、本当上手いなって。みんなと一緒にいたいから、大人にならなくてもいいしこのまま外の世界を知らなくてもいいと言っていたガク。でもコウイチから「次に大人になるのはガクだ。」と言われ、それを拒否しようとするけど大人によってダメだといわれる。そしてこれまでの考えはただみんなに甘えていただけなんだと気付かされる。この過程がちゃんと表現されているように感じられたのは凄いなって。あとは途中でぶち込まれた『ガクガックシ』というギャグというかリズム芸。素晴らしく面白かったです。
リョーコ役の京本さんは、最初はあのアニメ声に違和感を感じてしまったのだけが残念。でも頭が良くて、子供達を温かく見守る感じは良かったなと。しかしよりによって正真正銘の変態である児玉さんに、劇中とは言え「変態」呼ばわりされたことは本当可哀想としか言いようがないです(笑)
最後に久松さんについて。一番最近子供から大人になったシュージ役。この役ってまだ完全に大人になりきれず、子供たちの気持ちも痛いほど分かってしまうっていう本当難しい役だったんじゃないかなって思うんです。また大人になる直前に、カイとナオトに持ちかけた復讐計画がありながらも、その後はその素振りも見せなくなってしまった訳を背負っているんですから。そういうシュージの一歩内面を感じさせる演技が凄く上手いなって感じました。コウイチが笑顔で外に出かけた後の号泣とか、コウイチがルールを守らないと訴えられたときの表情だとか。そんな繊細な芝居するくせに、突然ぶっこむ笑いどころがもう!「ピーチクパーチク」とか急に言わないでください(笑)


演出もとても演劇的で好きでした。プロローグとエピローグで同じシーンを、演出を変えてみせる方法なんて素晴らしかったです。プロローグで、コウイチが誰かを理由あって手にかけてしまった事実を見せ、エピローグで全ての真実を知ってからまた同じシーンを見せる。このエピローグで、台詞をカイを除く子供達にユニゾンで言わせる演出がとても印象的でした。今聞いた真実を、今のこの状況を全員で受け止めたって感じがしたので。プロローグにはなかった、コウイチが手を合わせるところが追加されてたのもぐっときました。
あとはタイトルバック。児玉さんの胸に『雨プラネット砂ハート』と一文字ずつ打ち出されるのが格好良くて好きですね。この演出で期待値がますます上がった気がします。同じく文字の演出では、子供達が部屋を脱出し大人の部屋の窓を開けると『砂』の文字が現れそして、後に本当の雨が降ってきたと背景にに無数の『雨』の文字が降ってきたときにふわーっとなんて言っていいのか分からない気持ちになりました。ブルーの照明とか、雨粒よりもより雨を感じられたというか。脱出計画の説明の演出も、コミカルかつわかりやすいし好きでしたね。松橋さんによる大人たちへの無茶振りも込みで。オカマの描写が田所さんだけ下手。ていうか関町&久松の両者が上手すぎる(笑)もうひとついいなって思ったのが、暗転前後のブルーライト時の静止の演出。とても演劇らしいですよね。


そんなにSFは好きなほうではないんですが、この話は好きでした。本も、演出も、そして何より演じた芸人さん女優さんの力量が素晴らしかったので、この作品がこんなに好きになったんだなって思います。演者が良かったからこそ、複数回見れなかったのが本当に悔やまれます。頑張って当日券確保してでも見に行くべきだった。圧力鍋買ったからって浮かれて米炊いてる場合じゃなかったです。何度も見て、そのたびに注目する役を変えて見たかったと心から思う作品でした。神保町は再演しない方針らしいけど、こういう作品があるからそろそろ再演も考慮しては頂けないものかと思ってしまいます。しかし近頃は、神保町花月の作品が良いクオリティを保ってるので嬉しいですね。

*1:ソメソメ&ニュアンス

*2:ライス両人+児玉

*3:という名のブサ