神保町花月『ブラストが笑う夜』

作:石田明
演出:鈴木つかさ
出演:
ブロードキャスト/ソラシド/梶剛/若月

以前石田さんの脚本の映画を見ていて、とても好きでした。その映画が元々は舞台として書かれたものと知り、ますます興味が湧いたものでした。今回、ブロードキャストを主演に据え本を書き、演出に鈴木つかさともはや期待をするなというほうが無理なこの公演。前評判も上々なので楽しみでした。


主演はブロードキャストの房野さんでした。この房野さんの役がこれまでの神保町では演じてなく、かつこんな房野さんがみたいなと思っていた役柄だったので本当に見に行って良かったです。脚本的にも伏線というか、誰が「連続殺人犯・ブラスト」なんだという謎を軸に進んでいくのですが、途中で房野さん演じる西郷がそうなんだろうなとなんとなくわかるんです。でもその考えが揺らぐほど房野さんの演技が良い意味でフラットなんですよね。怯えるところは怯え、警備員として守るところはちゃんと守る。犯人が廃墟の警備員を演じるという役を2重に演じていることになるんでしょうけれども、それが見てて違和感がなかったのがすごいなと。それに加えて芝居中でのツッコミの立場も全部背負ってるのに芝居が壊れない。その芝居を経て、ラスト犯人・ブラストが西郷であると判明し復讐を始めた瞬間の冷静さを失い、殺意にまみれた表情はいつもの房野さんのキャラクターと全く違ってたのが印象的。復讐の理由、芸人をやっていた際の心ない人々の言葉に母親が心を病んでしまったと怒りと悲しみを全身にたぎらせて語る姿が、本当に痛々しく心が締め付けられて困るほどだった。芸人さんに「お笑いをやっていたために、母を殺してしまった」と言わせる石田さんの脚本も容赦ないなと思ったけど。この台詞を絞り出すように、涙ながらに語る房野さんの姿が目に焼きつく。このシーンのための2時間だったんだなと。*1
吉村さんはご自身でもエンディングでおっしゃってたけど、確かに美味しくはなかった(笑)個人的に私は吉村さんの演技が好きなんで、もっとががっと心に響く演技を見たかったかな。でも序盤、ひきこもり母親にだけは強く当たる感じや、ネットの社会でだけ強気に出たものの同じく顔の見えないネット世界のブラストに脅され、怯えてものに当たるところの演技のリアリティがあるからこそ、ブラストが彼を次の標的に狙ったことに説得力が出るのだなとも思ったり。
若月の二人は本当毎回毎回良い芝居をしますね。徹さんは今回もちゃんと外部の役者でした。毎回書いてますがたってるだけで絵になる。今回は殺し屋という役柄がますます格好良さを増長させてましたね。格好良いだけでなく、そりゃ芝居も素晴らしんですよ。出会い系で出来たという彼女との電話では、これ以上ないくらい気持ち悪くイチャイチャしてるんだけれども、その電話を切って武器商人との電話になった瞬間にすぱんと殺し屋の顔と声になるんですよね。この切り替えが本当に素晴らしくて、こういうところが芸人さんであり演技もできる人の良いところだなと。また殺し屋とばれないようにごくごく普通の廃墟や電波のマニアとしてふるまう姿も完璧だし、もう嫌だ、うまい。ひとつ凄く好きだったシーン思い出した!終盤西郷を挑発するシーンが、完全に常軌を逸した房野さんに銃口突きつけられながらも、殺し屋らしい余裕をもって構えている姿がリアルっ!!って感じでむっちゃ格好良かったです。
水口さんと亮さんはペアで。ただのバカップルと思いきや潜入捜査の刑事というこのギャップ。バカップルが完璧すぎて、刑事と判明した時は本当にびっくりしました。確かに水口さんのギャルはブスだし(笑)ごつすぎる(笑)確かに刑事と言われたら納得のごつさ。このギャルが徹さん演じる殺し屋の出会い系の相手なんだけど、なんでしょうね。徹さんが可愛いという女の子はきっとブスなんだろうなっていうこの確信は(笑)亮さんはカップルの時はいつも以上に自由奔放で楽しい楽しい。全く整ってない時の『ととのいました』発言には驚かされますからやめていただきたい(笑)そんなに自由なのに、刑事とわかってからはちゃんとシュッとした刑事然としてるし、今回も気持ちが入れば出てしまう涙を見せてくれました。西郷が同期を語るのを見守り、西郷を拘束しながらも涙している姿は本当に良かったです。
本坊さんは刑事によってこの場に呼び出された医者。帰国子女だから英語の発音だけむっちゃいいという、どっかで聞いたことあるような設定(笑)でしたがやりすぎな感じが楽しかったです。
梶さんは武器商人でかつ耳がむちゃくちゃ遠いおじいちゃんでした。笑いの部分は一旦置いといて(笑)。とぼけた表情の中にも、裏稼業に生きる人らしさもありまた生死に関わってきた人間の優しさが見えるシーンがすごい好きでした。吉村さん演じる男が、自分が興味本位でこの場に来たせいでいろんな人間が死ぬことになってしまったと後悔し、自分を責めているその背中をポンポンとたたくのが印象的で。


脚本は伏線がっつりという感じはそんなにしなかったのですが、それもブラストが完璧かつ疑り深いキャラクターだからと説明があるので、唐突な犯人と確信した理由として刑事たちが携帯の着信音のことなどを話しても違和感はなかったなと。2回目見たときにはもしかしたら、房野さんやら亮さん、水口さんの演技にヒントが見られるのかもですが・・・。一人ひとりが勝手に「こいつがブラストだ」と勝手に確信して疑心暗鬼になる感じや、キーアイテムとなるものが入っている段ボールが3つあり、それらが勘違いやすれ違いの端を発したりとわくわくハラハラする良い本だったなと。石田さんて久馬さんの影響って受けたりしてるのかしら?演出がつかささんっていうのもあったけれども、プラン9の芝居とよく似てたなと。プランていうか「コーポきよはる804」に雰囲気が似てるなと。以前見た石田さんの映画は、兄弟愛が前面にどストレートに伝わってくる話だったので、サスペンスかーと驚いたのですが犯人の動機が家族愛だったのでやられましたね。西郷の母親が最終的に命を絶ったのが、誹謗中傷を受ける息子に心を痛めていたものの、その息子に「一緒にテレビに出てくれないか」と言われ愛する息子の頼みだからと受けた。しかしその後息子と自分に対する誹謗中傷に耐えきれず・・・というところを事細かに言わせてしまうのが心にずどんと。また西郷が「その時の俺の顔はきらきらしていたと思う」というのがまたつらくて。これを芸人さんが書いたって言うのが重い・・・。動機がどうであれ、連続殺人を正当化できるわけではないけれどもここまでの殺意を抱かせた理由としては筋がちゃんと通ってたなと。
演出はこれぞ鈴木つかさ!って感じでした。細部まで丁寧に作りこまれたセット、全体に退廃的な照明や印象的な光の使い方。そして効果的な曲。どれもこれも好きでした。つかささんと言えばのオープニングの格好よさ、そしてザ・劇団って感じのエンディングまでちゃんと作りこんでる感じ。あー良いもの見た。つかさんの演出は暗転が少ないのが良いですよね。今回もOPとEDくらいしか暗転してないんじゃないかな。セットがちゃんと作りこまれているからこそ、人のすれ違いに緊張感が生まれ、それがサスペンスである芝居全体に良い緊張感が生まれてるんですよね。
あまり神保町ではサスペンスってジャンルはないので、もっと見たいなとも思います。だけどサスペンスは本当にうまい人が演じないといけないから難しんでしょうね。

*1:この独白シーン、意図してるのか知りませんが長い前髪が涙と汗で額に張り付き、その髪越しに怒りと悲しみの目というこの構図が本当に良かったです。ただかなり個人的に趣味嗜好が入ってる気がするので注釈で。