神保町花月「暇だったから」

脚本:樅野太紀
演出:毛利亘宏(少年社中)
出演:
かたつむり/Bコース/メルヘン倶楽部
浜口順子ホリプロ
あらすじ(公式HP)
人は不幸な時、ろくなことを考えない
人は暇な時、ろくなことを考えない
人はそれが重なった時、最悪のことを考える

これまで脇で光に光ってたかたつむりが主役だっていうわ、脚本は樅野さんだっていうわで期待するなって方が無理なこの公演。でもチケットを取る際にちょっとだけ引っかかったのは共演者(笑)これが良い意味で裏切られたというか、凄く良い芝居をしてくれたものだから、次の日早朝から大阪に行くって言うのに関わらず、当日券で夜公演も見てしまいました。まぁ、それだけが理由というわけではなく、昼公演が最前列だったので全体から楽しみたかったり、初っ端林さんがテンション上がりすぎて意味不明単語発言→全員に感染し全体的にぐだっのでスッキリしたのも見たいってのもありました。
若干長いです。


なんと言っても主役の高瀬を演じた林さんの凄みを見せ付けられた公演でした。『籠の城』のモズ役で「この人凄い!」と思わされた林さんの演技をコレでもかと堪能できる幸せは計り知れないです。他の出演者の何倍もの台詞を、独特のリズムで踊るかのように喋り捲る。そして「かたつむり林」でなく「高瀬」として全くぶれない演技に夢中でした。劇中の井沢(タケト)の台詞にもありましたがまさに情緒不安定な感じがビリビリ伝わって来る芝居なのに、ふと見せる表情が驚くほど冷たかったり、憎らしかったり、可愛らしかったり、色っぽかったり。2回目見て心底良かったーと思ったのは、結末を知っているからこそ気付けた「そのシーンで、そんな表情してたんだ!!」ってところ。井沢が嘘の自白を始めた時の微笑とか、大林(中澤)が本当の自白を終えたときの安堵の表情の後のニヤリとか。それは同じく騙してた(と思い込んでる)他の人にも言えるんだけど、林さんは本当一瞬の表情が凄く良くて、これを見れたことが本当に良かったなと。警察から口止め料を貰って出る時と、ラスト『僕の彼女は・・・きれい過ぎる人です」といって舞台を去る時はドキッとするほど色っぽかったなー。ドアに通ってる電流を止める際の、指を鳴らす仕草はスマートで、自白ゲームMCの際のバキバキしたテンションでとふり幅が大きすぎますって。本当林さんて、けして顔の造作が男前じゃないのにものすごい持ってる空気が格好良いですよね。雰囲気男前!!
中澤さんは自白を促される男:大林。これまでの中澤さんの役って、実年齢とはかけ離れているのになぜか中澤さんそのものな感じが多かったけれども、今回は違った一面が見れたので楽しかったです。最初、大林が起き上がった瞬間に、特に演出でなにかあったわけでもないのに「あ、物語が動く」と感じさせる存在感は天性のものですよね。会社で派輪腹に合っているような弱さのある役なのに、台詞の端々に「お話にならないですよ。お花ちゃんですよ」だのぶっこんだりはいつもの中澤さんも見え隠れで。ずっと四角いおじさんだった大林が、井沢の自白を聞いて『その人は嘘を付いてます』と本当の自白を始めたときのピリ付いた空気感が凄く好きでした。2回目見たときは、その自白を聞いている周りの人の表情も一緒に楽しめたのでますますピリピリ感が伝わってきましたし。笑いの部分はザ・中澤さんな感じで。背広のポケットからのハッピーターンや笹かまは腹筋に来ましたね(笑)
井沢役のタケトさんって芝居中もその芝居の空気を壊すことなく自然とツッコミを担っているのが凄いというか。勉強さんの自白を聞いて、『俺は2人殺してる』って出てくるところは、コレまでのキャラから一転シリアスでよかったな。勉強役(本来の役名は一切言ってなかった)の羽生さんは後半からの出番ながら、出てきた瞬間に不穏な空気を感じるほどで。出で立ちと名前で出オチて早々殺人という、これまでの罪が可愛く見えちゃうほどの罪を告白し始めるところなんかゾクゾクしてよかったですね。そうかと思えばその後のこの二人のシーンといえば取調べ。七条の取調べでのしつこい程のやり取りはBコース!!でしたね。土曜の1回目はまさかの浜順がぶっこんできて、羽生さんから「もう(ボケ)無いよ」と言わせる程のドSっぷりが面白かったです。七条とのやり取りで高瀬に完全に騙されたと分かった際の、羽生さん渾身の『井沢さーん。お金ぇぇぇ』は最高でした。ナベさんはとにかくニートソングが最高。2・3曲歌うと、1曲は???となるけど(笑)ポニョバージョンは秀作でしたね。
メルヘン倶楽部は男役ってだけで新鮮。タクちゃんのヅラの必要性を改めて認識しました。でも慣れたらちゃんと女々しい男のになってて。でもすぐ他の人のボケにはまっちゃったり、妖精な部分が見え隠れしちゃったりしたのは残念。それに引き換えクニちゃんのぶれなさは凄かった。若干台詞回しが一本調子なのが気になったけど、それも嫌味でインテリな大学院生のキャラを通してみるとなんか良い感じなのも。
七条役の浜口さんは本当に頭が良いというか、出来るアイドルですね。さすが唯一のお笑いに比重を置いたスカウトキャラバン出身なだけありますね。タクちゃんへのアイドルとは思えないビンタの強さとか。2回目見ると、『3日前』にあらかじめ大林以外の人物が集められた際に、大枝や高瀬の登場でちゃんとリアクションを取ってるんですよね。自白ゲーム中も、男女間の浮気の話や裏切りの話になった時には3人の男に対してちゃんとリアクションとったりと。


樅野さんの脚本だから、そりゃ一筋縄では行かない物語だと思ってみてましたけど2度も3度もえー!騙された!って思わされるとは。本当気持ち良い裏切りが最高でした。そんな話の中に組み込まれる「不幸と幸せ」「忙しいと暇」の概念の話も好きでした。またコレを話す高瀬が良かったってのもあります。あて書きだとしても本当にはまりすぎてた林さんの役はさすがです。最終的には人に罪を擦り付けてるし、自白ゲーム中はうっとうしいしイライラさせるそんな高瀬という人物を、最後の最後ちょっと男前にしめて、嫌いにはさせないこの感じが本当ずるいなと。
演出も劇中でウカイが見ている映像を、そのままリアルタイムで舞台上の多数のモニターに映し出す演出がワクワク感と、ゲームの人間としていやらしい感じ、背徳感が出てて良かったです。最初は舞台もモニターも全部見たいなんて無謀なことを考えてたんですが、途中でもう1回見ようと開き直ってからは集中して見れました(笑)なによりこの演出凄い!ってワクワクしたのがOPの出演者紹介の部分。高瀬がビデオカメラを持ちながら、参加者一人一人を写していく、その映像にテロップ。これがむちゃくちゃ格好良くて。まだこの時は高瀬という存在を受け入れ切れてないので、参加者がカメラを向けられた時の反応が、拒絶だったり怒りだったり動揺だったりと生々しくてそのドキドキ感がたまらなかったです。


今年見た神保町作品でもかなりの上位なこの作品。何度見てもそのたびに新たな発見がありそうな作品は見てて楽しいです。全く再演する兆しも見えないじんぼうちょう花月ですが、これもまだ見ぬ再演希望リストに入れたいです。そしてまたかたつむり班が見れるのを楽しみにします。