神保町花月『野菜とキュウリとごめんなさい』

脚本:冨田雄大(劇団オコチャ)
演出:吉谷光太郎
出演:
かたつむり林/シューレスジョー/若月
ゆったり感/井下好井
伊藤真奈美/工藤史子/永作あいり

1年ぶりのかたつむり班です。当初は千秋楽だけの予定だったんですが、思い立って初日と楽日にしたらこれ、正解。
あらすじは楽屋ブログをどうぞ。以前公演した「BIRD THE HAT」ともリンクしてるそうです。いつか続編見られるかしら?キュウリにはもう一度会いたい!


本がむちゃくちゃ良かったです。オコチャ先生、天才。情報が多くて、伏線も一杯で、目も頭も心もフル回転で見て無いと置いてかれちゃう感じのこの物語。とても切なくて、でもキラキラしたお話で大好きでした。芸人さんや、お笑いの作家さんが脚本を書いたときの当て書きの素晴らしさってこれまでに何度も神保町で目の当たりにしてきたけど、今回の井下さんは神がかってましたよ。完璧。オコチャさんのキャラクターの作り方と演者のポテンシャルが合わさって、こんなに救いの無いバッドエンドな話なのになぜかちょっと心が温かいというか、キュウリを嫌いになれないというか。オコチャ先生、やっぱり天才。でもって好きな台詞が多すぎる。
演出も凄い良かったです。なんていってもオープニング。心の中で「きゃー」って歓声あげたくなるほどのクオリティ。アメコミみたいな映像と、ものすごいしゅっとしたキュウリとラインが対峙するところからぐいぐい来ました。でもって中村さんのあの出方!もう初っ端から腹筋痛くなるほど笑わされました。なのにあんな役なんだもの・・・恐い。また、舞台後方に出入り口があってその時話題に上っている人が出てきたり、そこに現れることによってそうだったのかと気付かされるようになってたりでとってもいいなーと。救いのない話なのに、照明が鮮やかで、衣装がポップなのもいいなー。


キュウリは林さんしかできない役だなーと。いや、前回の主演作の「暇だったから」の高瀬も完全に林さんでなきゃだったので、彼のポテンシャルの高さに毎回驚愕させられます。今回のキュウリも、林さんじゃなかったらただ憎らしい悪役になってただろうに。林さんの良い意味での適当な雰囲気とか、明るい空気とかでものすごい非道な役なのに好きになっちゃう感じです。勝手なオリジナルソングとか歌っちゃうのにねー。オープニングでの頭巾ちゃんとの会話での「いいよ抱くよ」って言っていやらしく聞こえないって天性だ。しかし本当に林さんて細かい芝居しますよね。たまに自分でも言ってますけど気持ちで演じてるんでしょうね(笑)1度目見たときは物語を追うのに必死だったけど、2度目はキュウリの思惑を理解した上で見るとこんなときにこんな表情してたんだ!と驚かされます。特にカラーの手紙によってディタが死んでしまったと柱丸が伝えに来た時ににやりとするところとかあって、もうこの役者なんなの!って。だってその直後に「カラー、お前の愛が伝わったんだな」とか言っちゃうんですよ。またせりふ回しにも好きなのが多いんですよね。特に、ラインの銃を盗んで「銃、ちゃんとみてないと可哀そうだよ。こういうことになちゃうよ。」とラインの顔も見ずに撃つところは素晴らしかったです。千秋楽に教えてくれたのですが、ラストのキュウリの台詞は「BIRD THE HAT、かかってこい!!!」これを中指立てて言い、親指を下げた瞬間に暗転するこの演出の格好良さは抜群でした。
ラインの徹さんは本当にただの男前の役者さんでした(笑)オープニング、手帳を見ながら立ってるだけで絵になるってなんすか。最初徹さんって認識できないくらい男前でしたよ。憎しみのキュウリに対峙する正義であるラインが徹さんにぴったりの役だった。欲を言えば、エリート職を捨ててまでオール10博士の仇とキュウリを追っているというラインの背景がもっと知りたかったです。なのに最後に犬になちゃったから続編があってもこの背景はわからないのよね・・・と残念に思います。初めてキュウリが「キュウリです」って言ったときの鋭い眼とかすごいっす。ラインが正義で誠実な人だって見てるこっちに伝わるから、頭巾に「抱いてよ」って言われた時の抱くと決めるまでの葛藤とか、抱くと決めてからの「抱くよ。未来も過去も全部見据えて抱くよ。そういうことだから」って台詞もちゃんと伝わるし、頭巾ちゃんに病のことを聞かされ思わず拒否してしまったラインの表情が切なくて・・・。またこの時の頭巾ちゃんの切なさを押し殺した表情と「嘘よ。売春婦が愛で抱かせるわけないじゃない。」って台詞がまた胸を打つんですよね。
カラーは井下さんの代表役になるんじゃないですか、ってくらいのはまり役。失礼ながら井下さんでボロ泣きさせられる日が来るとは・・・。あんなに平坦なせりふ回しでこんなに気持ちって伝わるものなんですね。しかもむちゃくちゃ可愛いかった。ここは恥を捨てての可愛い発言ですよ。自分の手紙によってディタが死んでしまったと知った時の「ないよー、ないよー。こんな感情を表すTシャツなんてないよ。」とか「バイバイしたかったな」が本当に心にぐさりぐさりと突き刺さって涙が・・・。病を治してもらった後もほぼ現状維持な感じは笑ってしまいましたね。でもそんな笑いの後に、実はディタが死んだ手紙が自分が書いたものじゃなくてキュウリのものだったと知った時の怒りの表情が完璧で、え?出来る人なの?どっちなの?って心揺さぶられまくりですよ。
頭巾ちゃんもディタもどちらも大好きな女優さんで、期待通りに大満足なお芝居を見せてもらいました。あーやっぱり工藤さんも伊藤さんも大好きです。工藤さんの頭巾ちゃんは、「頑張って売春してきます!!」みたいな蓮っ葉な感じに見えるのに、ラインに心開いて、信じて、抱いてもらいたくて、なのに信じたのに裏切られて傷ついて。本当切なかった。ラインが抱くと言ってくれたときに「こんなこと言ってくれた人初めて!」って時の表情がかわいらしくてたまらなかったので、特にね。でも一緒にいられるからと犬になったラインをすんなりと受け入れるところが不思議だったり。ディタの伊藤さんは、神保町で見る度に涙腺を刺激されまくって困るんです。今回もラインとのシーンは、ただただセクシーだったし、手紙を貰った喜びを本家顔負けのキレで「リゾート気分!!」ってやっちゃうのに。なのに、カラーから手紙を貰って読むか否か迷いながらも喜びがあふれてる表情、手紙を読んでしまい幸せな表情のまま息を引き取るところ。どれも魅力的で。特に2度目見たときは、「死んで良かったと思える」とまで言ってる手紙が実はキュウリのものってことがわかっているからこそ、そのシーンが切なさが微笑ましさを越えてしまって悲しかったり。
亮ちゃんって普段はどこを見ても徹さんの弟なのにちゃんとお兄ちゃんな桂丸なんだよね。彼は「気持ちさえ入れば泣ける」ただの役者なんですが、本当に今回の泣き所を一手に引き受けてましたよね。前半でディタへの溢れる愛情を感じられるから、ディタに病について伝えられない葛藤も、そのために妹が死んでしまったという悲しみもちゃんと伝わるんだなって。
フレッシュとキャラメルのカップルは本当にかわいらしくて。永作さんは本当にただただ可愛らしく、あんな変なカチューシャ似合う人いません。江崎さんのフレッシュは本当のフレッシュ(笑)こちらがさわやかで、キャラメルへの一途な思いが伝わるからこそその後が生きるのでね。笑いどころはがっつりなのに、自分が死んでいると理解した時の顔や「生きたいなんて思わなきゃよかった」とつぶやくところでは、切なさで心をぐわっと掴まれました。江崎さんが本物のフレッシュあふれるからこその、中村さんでしょう。もう、偽フレッシュの爆発力がすさまじいです。オコチャ先生も残酷(笑)こんな顔だの、こんな声だの、もうメタメタだ。ジョーダンズのくだりをアホほど繰り返してみたり、個人的に伝説のボケ『舞台に上がれない』*1を繰り出したりとやりたい放題で笑いをとる姿勢が好きです。なのに、自分が偽フレッシュでと悪の顔が見えてきてからの芝居はきっちりで良かったです。それまでがふざけてるのに、「俺って嘘つきなんだよね」って言いながら無表情で柱丸に銃を向け続けるところがすごい残忍で良かったです。中村さんって、神保町出る度にうまくなってますよね。
ドクターホワイト80とキラキラナースも良いコンビで。シューレスさんは最初変態、後悪役って美味しすぎるでしょう。好井さんはサービス旺盛すぎるセクシーナースだし。喋りおかんだし(笑)でもなぜか可愛く見えたのでなんか壊れてんでしょうね、私。キャラメルに「大事なんは、ここ」となんとかしておっぱい触ろうとする感じがわちゃわちゃしてて楽しそうでなによりです。病院で人が殺しあって、そこにラインが来た時の「信じて貰われへんやろうけど、(私ら)関係ないんですよ」言い方が本当に冷酷でぞわっとしました。


久々に見終えた後にすぐに帰らずに、友人と「喋ろう!」ってなったお芝居でした。特に1度目見たときは、すべてをすくい切れずに疑問に次ぐ疑問で喋りに喋りましたよ。それでも話題が尽きない感じ。こんな背景を知りたい!彼らの気持ちが知りたい!ってなったのは久々かも。ぜひとも続編、期待してます。

*1:出典:『テルニ』